素材を売るか、創作を売るか
「もっと単価を上げたいんです」
これは、商売をする人なら誰もが感じた事があるんじゃないかと思う。
私も、商品やサービス、個人など、様々な業種のプロデュースやWeb展開、ブランディングに関わる中で、こういった声を聞く機会は非常に多い。
ただ、どの業種にも共通した単価の構造というものが存在していて、それを分かっていないと、単価が上がるはずのないところで永遠に勝負をしてしまい、ドンドン疲弊していくという悪循環に陥ってしまう。
特に、目に見えない無形のサービスや商品を扱う業種はそうだ。
まず、分かりやすく目に見える食材で考えてみる。
例えば、仕入れた食材をそのまま売る八百屋やスーパーという「仕入れた素材を売る」という業種。
この業種の単価が超高額になる事はまずあり得ない。
トマト100円とか、レタス200円とか、魚の切り身500円とか、多分そういう単価に留まる事がほとんどだ。
どんなに八百屋やスーパーがブランディングしようとも、構造上ただ「素材を売る」業態の単価が高くなる事は難しい。
だけど、同じ食材を売るにしても、単価が一気に上がる方法がある。
それは何かと言うと、その食材で料理を作ってから売るという方法だ。
懐石料理、イタリアン、フレンチ。
この方法だと、数千円から、数万円、いや一流になると、トマトとレタスと魚の切り身で、10万円近い単価で売る事ができる。
もちろん、これはスーパーがダメでフレンチが正解という類の話ではなく、単価の構造の話をしているだけだ。
何を目指すべきかは本人が決めるべきだ。
そして、この話は当たり前だと思うかもしれないけども、これが無形のサービスとなると、途端に分からなくなってしまう人が多いように思う。
例えばカメラマン。
よく、フリーランスになりたてのカメラマンが取る方法が「イベントを撮ります」とか「パーテイを撮ります」とか「記念写真やインタビュー撮ります」といったケースだ。
これは、「すでにその場で起こっている現象」を撮るという行為に分類され、そこに自分の「創作」という余地が入る事はあまりない。
つまり、食材で言うならば「素材を売る」という業種、つまり八百屋やスーパーに等しいのだ。
言うまでもなく、その仕事が高単価になっていく事は難しい。
パーティのイベントを撮って1本300万円です、なんていうカメラマンは聞いた事がないだろう。
逆に、カメラマンでも、一気に単価が上がる分野がある。
それは、自分で光や空間を組み立てて撮る「広告」や「アート」の世界で、この分野は単価も恐ろしいほどに上がってくる。
1枚7億円の写真もあれば、1本撮影してギャラ1000万円のカメラマンなんてのも普通に存在するのだ。
それは、そのジャンルがただ写っている現象をそのまま撮るといった「素材売り」ではなく、大部分が「創作」で占められているからだ。
もちろん、この「創作」の中には、単純なビジュアル面での創作を始め、「概念の再構築やストーリーの付与」といった意味での創作も含んでいる事は言うまでもない。
そして、このカメラマンの話は単なる一例で、ほとんどの業種がこの単価の構造に当てはめられると思う。
1本5万円で上の工程から指示されたデザインを受注するデザイン会社もあるし、最低1本5000万円のフィーで企画から入る友人のデザイン会社も知っている。
つまり、それは「素材を売るか、素材の創作を売るか」という話なのだ。
そして、以上の事を踏まえた上で一番大切な事は、自分がどこを目指すかがちゃんと定まっている事。
大量に仕入れて単価を安く効率的に売る的な業態をしたい人はそれが一番良いに決まっているし、そこに正解も不正解も存在しない。
一番良くないのは「私は一流フレンチの単価でやりたいんですが、八百屋の業態で中々単価が上がらないで困っています」という状況。
まずやるべきなのは、今自分が持っている事を全部捨てて、目指すべきゴールとスタートする道をピッタリ合わせる事だと思う。
だって、単に市場で仕入れた普通のトマトを八百屋の店頭に並べて1つ3万円で売る、なんていう芸当は、ブリーフ1枚でブリッジしながら川に飛び込んだとしても絶対に出来ないんだから。
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