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「おうちはどこなの」と少女は問うた

 東宮生まれ東宮育ちの6年生、桂木杏奈はこの町が大好きだった。だから自販機コーラ一掃事件や血みどろ軍手大量発生事件といった難題も解決してきたし、転校生のマリちゃんに町を紹介して馴染んでもらうのもぞうさもないことだった。そうしてスーパーの店長に「杏奈ちゃんは東宮の顔役だね」なんて言われて以来、杏奈は得意げに自分を“かおやく”と呼ぶのだった。

 夏休みのある日、おつかい帰りの杏奈の目に見慣れない姿が留まった。暑い中茶色のスーツを着た、老眼鏡をおでこに上げて電柱に書かれた住所を睨む老人だった。

「おじいさん、何かお困り?」

 杏奈には"かおやく"として町を訪れる全ての人を助ける責任がある。

「これはご親切に、この住所を探しているのですが」

 差し出された封筒に記載された差出人の住所を見て、杏奈は顔をしかめる。

「場所は分かりますかな」

「うんでも……おじいさん、これいつの手紙?」

「つい最近、一週間前に受け取ったものです」

「うーん、とりあえず付いてきて」

 *

「ここがその住所なんだけど」

 わずか数分歩いたところの一軒家を指して、杏奈は続けた。

「あそこ私の家なんだよね」

「なんと、ではお嬢さんは夢野くんのお子さんか」

「いやその封筒の夢野治なんて人しらないし、もうずっとあのおうちに住んでるから……」

「しかし、ここの表札には夢野と書いてありますが」

 老人が指さす「夢野」と書かれた表札を見て杏奈は絶句する。

「ふむ、とりあえず呼び鈴を押してみましょうか」

「待ってよ鍵なら持ってるし!」

 慌てて門扉の柵を開け玄関ドアにかけ寄り鍵を差そうとするも嵌らない。

「なんで!?お父さん!?お母さん!?」

 血相を変えてドアを叩く。老人は興味深そうに少女を見ながらインターフォンを押す。直ぐにドアが開き寝ぐせだらけの中年男性が顔を出した。

「一体何……おや正木教授、お電話をくれたら迎えに参りましたのに」

「やぁ夢野くん、とりあえず中にあげてくれないか」

(続く)

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