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連載小説⑬漂着ちゃん

「私が2年間も寝ていたのは本当なのか?仮にそうだとして、君はその2年間、どうしてた?」

「あなたに助けられた私は、エヴァさんと一緒にいました。その隣には、眠っているあなたがずっとそばにいました。エヴァさんのおかげで、現代の言葉を理解できるようになった私は、この収容所でさらに色々なことを学びました」

 ナオミは語りつづけた。


 私が目覚めると目の前には、エヴァさんがいました。弥生時代から急にこの世界へ来たわけですから、私は相当取り乱して何か叫んでいたそうです。

 しばらくの間は、錯乱状態にありました。ただ恐怖しかありませんでした。
 しかし、次第に自分の置かれた状況を把握することが出来るようになりました。

 エヴァさんは弥生時代の言葉も現代の言葉も、どちらとも流暢に話すことが出来ます。だから、私の教育係となったのでしょうね。
 私は徐々に弥生時代の言葉を思い出すと同時に、現代語も話せるようになってきました。その傍らにはいつもあなたがいました。

 もちろんあなたはずっと寝ていたから、何も話しません。しかし、エヴァさんから私を助けてくれたあなたの話を聞くうちに恋に落ちてしまったのです。

 この町の掟では、「漂着ちゃん」とその発見者が結婚することは許されていません。それは、そのような噂が仮に外部に漏れてしまったら、「漂着ちゃん」を目当てにこの町にやってくる人が激増するかもしれないから。

 でも、私はどうしてもあなたと結ばれたかった。だから、私を発見した人は不詳ということにして、あなたと私が結ばれるように、エヴァさんが取り計らってくれたのです。

 そんな事情を知らないあなたを、ヨブが生まれるまで、私は欺き続けました。何も知らないような素振りをして。
 
 子どもが出来てしまえば、掟破りとはいえ、子どもの人権は少なくとも保護されます。
 
 あなたを騙しつづけたことは謝ります。けれども、この1年間、あなたは私の望みを叶えてくれました。感謝しています。これからも私とヨブと一緒に、生きてくださいませんか? 


 私はナオミの一途な思いに胸をうたれたが、同時に心の中に芽生えたのは、エヴァへの憧憬の念だった。

 死を覚悟した私は、ナオミを救うことができた。そして、そのナオミは私を愛してくれている。私もナオミを愛しているが、私の心の中には、エヴァへの愛情も大きくなっていた。

 エヴァをとるか、それともナオミとヨブをとるか?

 自死を覚悟する前の私だったら、迷わずナオミとヨブを選んでいたことだろう。しかし、今の私には、既存の倫理観ではなく、自らの本能的な欲望に身を任せてみたいという気持ちが膨らみつつあった。


…つづく


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