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日本文学を英語で読む②|円地文子「女坂」


「日本文学を英語で読む」
シリーズの2作品目は、円地文子「女坂」
 原文テキストは新潮文庫版、英語訳はVINTAGE版(John Bester, "The Waiting Years")を用いる。


 対訳を見る前に、円地文子の略歴と「女坂」について。

円地文子の略歴(↓)

「女坂」について

新潮文庫の解説は、江藤淳が書いているが、「女坂」について次のように評している。

「女坂」がいかに傑作であるかということについては、すでに諸家の批評があるから、ここにくだくだしく繰り返す必要はない。私は今まで三度ほどこの作品を通読したが、その都度新しい感銘を受けるといっておけば充分である。たとえば、この小説のなかで厳格に選択されている言葉の重い感触を思い出してみるがいい。ここにはなにがしかの「過去」の記憶を秘めていない言葉は一語たりともないのである。

円地文子「女坂」新潮文庫
p.248
江藤淳の「解説」より。

円地文子「女坂」(新潮文庫)

The Waiting Years

Vintage版 John Bester訳

女坂 | 第1章 (前掲書 p.16より)

 女にかけては放埒な白川を倫はもうこの年までによく知ってい、結婚して数年のような純な愛情は夫に持てなかったが、それでも敏腕で男ぶりのよい白川は倫には充分魅力のある良人であった。

 細川藩の下級武士の家に産れて維新前の混乱した秩序の間で教育も芸ごとも碌々身につけず、早く結婚してしまった倫には、今の良人の位置にふさわしく交際や家政をとりさばいてゆくのはなかなかの仕事だった。でも気象の烈しい倫は夫と家とを大切に思う道徳できびしく自分を縛って、誰からも非をうたれないように油断なく家事に心をつかって暮していた。倫とすれば一ぱいの愛情と知恵が夫を中心とした白川家の生活につめこまれていたのである。


同一箇所の英訳

 Familiar by now with Shirakawa's self-indulgence where women were concerned, Tomo could no longer feel for him the pure love she had experienced during the first few years of their marriage, yet his ability and his manly bearing still made him sufficiently attractive as a husband. 

 (文法解説)

いきなりfamiliarという形容詞で文が始まっているが、これはいわゆる「分詞構文」

接続詞を用いて書けば、
Though Tomo was familiar (by now) with ~である。
分詞構文にするには、
①まず接続詞(ここではThough)を取っ払い、
②「,」(コンマ)の後ろに続く「主節」と主語が同じだから「Tomo」も省略する。
③そして「was」を「~ing形」にする。
すると、
Being familiar (by now) with~となるが、一般的に「being」は省略されるので、英訳のような文になる。

 では、つづきの英文にすすむ。

 To take charge of a social life and household in keeping with her husband's present position ad not been easy for a woman born into a low-ranking samurai family of the former Hosokawa clan and married early with n chance, in the social turmoil just preceding the Meiji Restoration, to acquire either a proper education or the usual social accomplishments of the well-bred young woman. Yet an inborn hatred of compromise made her impose upon herself a strict rule of conduct that gave first importance in everything to husband and family, and she supervised the daily affairs of their household with a meticulous care that was beyond criticism. All the love and wisdom of which she was capable were devoted to the daily lives of her husband and the rest of the Shirakawa family. 

(文法解説)

「でも気象(ママ)の烈しい倫は~」にあたる英訳は、
Yet an inborn hatred of compromise made her impose upon~
というように「無生物主語の構文」で処理されている。

直訳すれば、
「妥協を嫌う生まれながらの気質が、彼女に~を課した」という感じ。

ほかにも指摘したい箇所はあるが、各自検討されたし。

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