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マスカレードまたはマスクド大人たちの腹の探り合い

「何の仕事をしているのですか?」と聞かれると回答にとても困る。これは行間に「どこの会社で何の役職で何の仕事をしているのか」と聞かれていると個人的に思っているからだ。

「会計事務所で経理の仕事してます」と初対面の人には簡単に答えるが、これは正確ではない。私は、あっちこっちで「経理」をしている。会計事務所での仕事は、業務委託としていくつか担当を持ち会社設立や日常の経理業務、財務申告等の依頼された役務を提供する。また同時に雇用契約で会社に属し、経理総務業務を行っている。肩書きもあったり無かったり、色々だ。ついでに言えば、フラのインストラクターもしているので、こちらも仕事に含む。

格好よく「アカウンティング・コンサルタント」とか「バックオフィス・ファシリテイター」分かるようでさっぱり何言っているか分からない自己紹介をすれば、初対面の人に一定の驚きを与えつつ、印象を残すことができるだろうかと真剣に考えたこともあったが、がらじゃないので実行には移していない。先方もそんなに私に興味ないだろうし、変な肩書ははりぼて感満載でダサい。

とにかく「経理及びそれに付随する業務」「フラインストラクター」を役務の提供をし、糊口をしのいでいる。

フラインストラクター業務は早々に無くなったが、経理業務の不況は、多くの人の仕事が不況に見舞われて、焼け野原になった少し後にやってくる。この昨今の状況で助成金や借り入れのための業務が増えているが、落ち着いて、多くの会社や個人事業が儚くなったところでわれらの仕事が減ってくる。

とは言え、自分の居心地がいいバランスで生活を送るためには、ボーイスカウトの様に「備えよ、常に」で邁進しなくてはならない。

この事態にどうしようもない業種の会社での仕事は、見通しが悪い。急なことになって、焦らないように私は迷いなく選択肢を増やすことにした。

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丁度良い求人が、派遣契約であったので、早速に申込み、めでたく職場見学という名の面談が決まった。二人いる派遣会社担当者と時間まで、打ち合わせを兼ねてお茶をする。駅で会った私たち三人は、もちろんのことマスクを直用している。閉まっているお店が多く、「なかなか開いてませんね~」なんて話してはいるが、顔の50%を占めるマスクで表情が分からない。

落ち着かない。シンデレラの彩先生が山岸由花子の顔のパーツをたくさん出してきたみたいに、目元だけでは人の印象が決まらない。読みきれない。人の思惑を判断するのにノンバーバルな部分をかなり見ていることに今更ながら気づく。

何とか空いている店を探し出し、カフェで飲み物を飲んだ時、ああそんなお顔でしたのねと思った。多分お互いにそう思っただろう。

会社概要や仕事内容、条件を確認して、面談に向かう。マスクしたままで良いのか聞いたら、「この状況だから、マスクしたままで大丈夫でしょう」と言うことで顔の50%を隠して勝負に臨む。

始めに、実務をやっており実際に一緒に仕事をする人たちが出てきた。もちろんマスク着用だ。業務内容、先方のリクエストを聞き、和やかに第一ラウンド終了。

業務内容とリクエストについては問題なく対応できると感じた。働きやすそうな人たちだと思った。

次の相手は更に上のお偉いさんだ。派遣会社の人から、話しやすくお人柄は良いと言うことは聞いている。マスクなので、相変わらず目元からしか顔の表情は分からない。

とても気さくな感じの人でテンポよく会話が進む。顔が隠れている安心感からか、知らない人と会うときに押すヤル気スイッチを強く押さなくとも話ができる。

ここなら働いても大丈夫かな相思相愛っぽいかなと思ったが、クロージングの際にお偉いさんからこの質問が飛び出た。

「ところで、結婚してるの?子供はいるの?」

この質問は、最も嫌いな質問だし、派遣の面談では聞いてはいけない項目であったと記憶している。髪型について言及された仗助のごとく、即座にクレージーダイヤモンドを顔面に叩き込んでやりたかった。その位、特に仕事関連でこの質問をされることに嫌悪感と怒りを覚える。その質問をした背景にどんな理由があってもだ。

即座に質問に対して、にこやかに正確に答えたが、マスクから出ていた目は、死んだ魚の目になっていたかもしれない。

意外と若そうなのにこの質問をしてくるやつがいるとは、思わなかった。もしかしたら面談中に何かしらの表情が出ていたかもしれないが、マスカレードな状況だったので全く気がつかなかった。こっちも表情が分からない気やすさから浮かれていたかもしれない。

昔からこの質問をしてくるやつとは十中八九話が合わない。性格も合わない。そもそも考え方が合わない。この質問とこれまでの会話から判断するに、自分より若い人にマウンティングして、自分の思い通りに人を使いたいやつだと、私は判断する。一世風靡した子沢山おじさんの性質を彷彿させた。

無いなと思っていたが、それは先方も同じだったようで、翌日「やはり若い人を採用して、教育しながら業務を進めることになった」と条件自体を変えて断ってきた。ちーん。

結果は判定負けということになったが、よくある事なので、一瞬反省してまた次のできることを探そうかねとむっくりと立ち上がった。

私の「新しい生活様式」にはマスクした状態での腹の探り合いというものも含まれるなと思う。人間関係構築には用心深いので、言葉以外の情報も集めているということを今回のことで初めて認識した。今後、バーチャルな世界でのコミュニケーションや直接会ったとしてもマスク着用でのコミュニケーションだとしたら、顔の細かい表情を読み取るのは困難になるし、今までより精度は落ちるだろう。

だとしたら、変な腹の探り合いなどせず、自分の要望、意見をはっきり言うのが私のやり方になってくるだろう。それがダメならダメで次に進むと強く心に染み込ませ、自分がダメだと傷つかないように調整していかないとならん。意外とデリケートなのだ。

アフターコロナでもウィズコロナでも何でもいいけど、世界は変わるのだから、自分もアップデートしなくちゃなと思わせる出来事だった。どんな状況でも頑張るけどな!

いつも有難うございます!