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『君たちはどう生きるか』から創作におけるテーマとディティールの関係性について考えてみました

「正しい解釈」などない


宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』について、まとめてみます。

私が観たのは、公開から約1週間のタイミングでした。今日時点になると、さすがにちゃんとしたレビューもぼちぼち出てきていますね。また、新作公開記念でテレビで『もののけ姫』が放送されたこともあって、宮崎駿監督のクリエイト全般も含めた考察や分析が、ツイッターでもいくつか見ることができます。

皆さんはそれらも含めてご覧になったでしょうか?

参考になるもの、違和感のあるもの、いろいろあると思いますが、僕は「それぞれの楽しみ方がある」ということでよいと思っています。基本的に、作品の楽しみ方は個人の自由に開かれているべきであると思うからです。

あらゆる芸術作品に「正しい解釈」など存在しないと思いますし、少なくとも編集者の仕事は、そうした「多様な楽しみ方」を否定して成り立つものではありません。

そのうえで、いろんな考察、分析、感想をみていて私が改めて感じることは、物語から「テーマ」を読み取る、ということの難しさです。

個人的には、今作ほどわかりやすく、テーマをそのまま打ち出した作品は珍しいと感じましたが、思いの外、「何が言いたいのかわからない映画だった」という感想が多いのが、印象的だったんですね。

また、この作品のテーマはこうですよ、という解説ブログに対して「なるほど!」という感想を寄せている人が多いことからも、「テーマを読み取る」ということはそれほど簡単ではない、ということがわかります。


「テーマ」と「物語」の関係

まず、押さえておくべきことは、「テーマ」は、物語とイコールではない、という当然の前提です。たとえば『もののけ姫』には、表層レベルでは「自然と人間」というテーマがあるし、少し奥に入ると、人間同士の差別/権力の問題(タタラバと武士の抗争や、ハンセン病、不可触民差別などが描かれていますね)がある。

ただ、これはあくまで「テーマ」であって、「物語」そのものではありません。

優れた作品だからといって、必ずしもテーマが練り込まれているとは限りません。凡庸なテーマでも素晴らしい作品はいくらでもあるし、逆に、高尚で入り組んだテーマを取り上げて失敗している作品もたくさんある。

テーマ分析が好きな人は、「テーマが読み取れなければ物語は100パーセント楽しめない」と考えがちなのですが、僕はむしろ、「テーマを読み取れなければ100パーセント楽しめない作品」というのは、物語としては「不完全」なのだと考えています。

アニメなら、最初から最後までの1時間半なり2時間なりを、時間を忘れて楽しめるかどうか。そこが何より大事だと思うんですね。「難解で、観ていると眠くなるんだけど、何度も繰り返し観てディティールが理解できるとようやく楽しめる」という作品だってある、ということは否定しませんが、そういう作品が存在することと、「初見で、予備知識なく楽しめる作品」の価値は別の問題だと思います。

そういう意味では、宮崎駿監督作品のなかで、『もののけ姫』は「不完全」寄りの作品ではあるだろうな、と思います。誤解のないように申し上げておきますが、「不完全である」ことは、「作品の価値が低い」わけではありません。物語としての自己完結度が高くても、つまらない作品というのはありえます。

言い換えるなら『もののけ姫』は、素晴らしい価値ある作品ではあるけれど、楽しむためにはある程度の予備知識や解釈力を求められる作品ではあると思うわけです。

宮崎監督の一連の作品のなかでも、一般に「難解」とされているものは、『もののけ姫』と同じように、「テーマ性」が前に出ているものだと思います。そして今回の『君たちはどう生きるか』は、これまでになく、そういう傾向の強い映画だったんじゃないか、と感じます。それゆえに、冒頭で述べたような「何が言いたいのかわからない映画だった」という感想や、テーマを分析する議論が巻き起こるのかな、と思うんですね。

ここから先は、ネタバレと、ややセンシティブな分析が含まれます。未見の方で、これから映画館で鑑賞する予定のある方は、読まないようにしていただければ幸いです。

※なお、「アイデアを形にする教室」の皆さんには、メールで有料部分も配信します。

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