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街と日常の誘惑

私は仕事をしていないので、一般的な成人の中ではかなり収入が少ない方だと思う。年間で使ってよいお金も額は決まっていて、どんどん高くなる物価や税金にはほとほと困り果てている。私のような貧民からこんなに高額な税金を取らないと国が運営できないのでは、この国の未来はあまり明るくないと思う。戦時中に病弱な人のところにまで赤紙が届き「ああこの戦争は負けるんだな。」と実感した。というような話を聞いたことがあるが、それと同じだ。

金がないなら働けばいいじゃん。と、私も思うのだけど、私の年齢で、何のスキルも経験もない人間が働いて稼げる金はたかが知れている。年老いた親の面倒も見ながらの生活だから、週に4日、がんばって5日働けたとして、得られるのは15万円程度になろうか。それでもないよりはマシだろうが、もともと浪費癖があり、見栄っ張りで女好きな私が、毎日、自宅を離れて他人と何らかの接点を持つわけである。

また恋に堕ちて稼ぎ以上の金をそこに注ぎ込むのはもう目に見えている。

出会いは必ずある。職場に女性がいなくても、街を歩いている人間の半分は女性である。メシを食う場所、コーヒーブレイク、通勤電車、横断歩道、、街は誘惑の宝庫だ。

デート代がかさむぐらいで済めばまだマシで、もっと最悪のケースはいくらでも想定できる。これまで運良く相手の女性を妊娠させたり、訴訟されたり、相手の配偶者に刺されたり、妻から離婚を申し付けられたりするような事件に発展することなかったが、これまではただ自分がラッキーだっただけの話だ。リスクはいつでも、傍に、とても近いところに、常に、存在した。

街は破滅の象徴だ。私のような人間は街に出てはいけない。

DJなんぞをやっていると、もっと誘惑が多いんじゃないか?

確かにその通りだと思うのだけど、DJをやっていて女性問題に発展したケースというのは不思議とこれまでにないんだよな。他で出会った女性がDJやってるところに来るというのはあったとしても、DJの現場で出会いがあってその後云々というのは考えてみれば一度もない。

そうでなくてもDJの仕事というのは基本が単発で、同じ場所でプレイするにしても月にたかだか1回とか2回の頻度。おそらく、私が出会いを恋愛に発展させるためにはある種の「連続性」が必要なのだと思う。ルーティンな日常生活の中に発生する小さな出会いが繰り返されることで、ストーリーが展開し危険な恋へと導かれていく。DJで一度会っただけの美女は単に美しい女性というだけで私の「物語」には絡んでこない異邦人というわけだ。逆にだな、DJをやるたびに毎回顔を合わせる女性がいたら、それが偶然だったりしたら、それはかなり危険性が高いと言えよう。

先ほど私は自分のことを「女好き」と称したが、こうやって話をしているうちに、何だかそうでもないような気もしてきた。私が求めるのは「物語」なんだと思う。「日常生活の中に潜む非日常的な物語」。たぶん。

そんなわけで私は「街と日常の誘惑」を避け、こうやって日々、ほとんど何もせずに、自宅に篭って、倹約的で健全な生活を営んでいるわけだ。楽しみがSNSとNetflixぐらいしかないのも理解していただけよう。

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