正の数と負の数
ここに書かれていることはすべて個人的に妥当だと思っている解釈であり、一般的な解釈とは多少異なるところがある。
そんな感じで、正の数と負の数について少し変わった視点から見ていきたいと思う。
正の数と負の数の必要性と意味
ものを数えるとき、ものの数が増えることに関しては限界はなくどこまででも増えるが、減ることに関しては0が限界であり、0より減ることはない。この意味において、ものを数えるうえでは、0より大きい数さえあれば十分である。
実際に存在するものを数えるときは、1以上の数があればいい。したがって、ものの数について考えると、1,2,3,…が「基本の数」だといえる。
ところが、数は、ものを数えること以外にも応用可能である。長さや重さを計測したり、位置を表すことにも使われる。
長さや重さについては、「単位(決まった長さや重さをもつもの)を数える」ことで、数を使って表すことが可能になる。もちろん、単位にぴったり合わない場合もあるので、そういうときは単位を分割することでなんとかして合わせる。ここで分数や小数が活躍するのである。
最後に、位置を表したり、比較に使うための数について。
ここから道なりに3km進むと学校があり、ここから3km戻ると駅がある。
みかんはりんごより5個多く、ももはりんごよりも5個少ない。
3km進むと3km戻る。5個多いと5個少ない。同じ数字であるが意味が違う。いちいち言葉をつけて考えるのはめんどくさい。まとめて計算で扱えるようにしたい。そこで、似ている例として、次の2つの計算について考えてみよう。
12個のものに4個増やす計算は$${12+4}$$.
12個のものから4個減らす計算は$${12-4}$$.
4個増やすと4個減らす。数字は同じであるが意味は違う。計算式も違う。$${+4}$$と$${-4}$$のように足し算か引き算という違いである。違いを表すのにこれが使えるのではないか。
3km進むことを$${+3}$$,3km戻ることを$${-3}$$と表す。
5個多いことを$${+5}$$,5個少ないことを$${-5}$$と表す。
4個増やすことを$${+4}$$,4個減らすことを$${-4}$$と表す。
このように「位置や比較、増減」には互いに逆向きの2種類の方向があり、それぞれを別の種類として区別して数えることにする。
正の数と負の数の四則計算
まずは正の数と負の数の足し算と引き算について考えよう。
数の増減を計算する。
5個増えて、それから3個減った。これらの数の増減を合わせて考えると、数はどう変化したことになるか。
数の変化はそれぞれ$${+5}$$と$${-3}$$で表される。増減を合わせて考えることを足し算で表すことにすると、計算式は$${(+5)+(-3)}$$となる。5個増やしてから3個減らすのは結局2個増やすことであるから、計算結果は$${+2}$$となる。これらのことを式で表すと、$${(+5)+(-3)=+2}$$ということである。
さて、めんどくさいのは引き算である。
次のような場合を考える。
5個増やしてから3減らす。これは2個増やすことに等しい。ところが、3個減らすのをやめることになり、3個減らすことをやめた。そうすると、結局5個増やすだけでいいことになる。以上のことは次のような計算式で表される。
$$
(+5)+(-3)=+2\\(+2)-(-3)=+5
$$
以上の具体例も参考にしつつ、正の数と負の数の計算の規則について考えることにしよう。
正の数と負の数の間には次のような関係がある。
$$
(+1)+(-1)=0\\(-1)+(+1)=0
$$
1km進んで1km戻ったら、結局まったく進んでいないのと同じである。
1個減らして1個増やしたら、結局何もしないと同じである。
これこそが正の数と負の数の最も重要な特徴である。
これで0からさらに引くことができるようになる。$${0}$$と$${(-1)+(+1)}$$は同じなので、
$$
\begin{aligned}\underline{0}-(+1)&=\underline{(-1)+(+1)}-(+1)\\&=(-1)+\cancel{(+1)}-\cancel{(+1)}\\&=-1\end{aligned}
$$
0から正の数(+1)を引くと、負の数(-1)になるのである。これを負の数の定義として用いてもよい。
負の数を引く場合はどうだろう。
$$
\begin{aligned}\underline{0} -(-1)&=\underline{(+1)+(-1)}-(-1)\\&=(+1)+\cancel{(-1)}-\cancel{(-1)}\\&=+1\end{aligned}
$$
驚くべきことに、0から負の数(-1)を引くと、正の数(+1)になるのである。
正の数や負の数を表すときに使う記号"+","-"のことを「符号」と呼ぶ。数の符号を見れば、その数が正か負のどちらのグループに属するかがわかる。
同じ符号の数の計算(つまり正の数同士、または負の数同士の計算)については同じグループ内での計算なので、通常の計算(自然数の計算)と規則は変わらない。ただ、符号をつけて、どちらのグループに属するかはっきりさせておく。
足し算
$$
(+1)+(+2)=+3\\(-3)+(-2)=-5
$$
引き算
$$
(+6)-(+2)=+4\\(-7)-(-2)=-5
$$
特殊な場合の引き算
$$
\begin{aligned}(+5)\underline{-(+9)}&=(+5)\underline{-(+5)-(+4)}\\&=\cancel{(+5)}-\cancel{(+5)}-(+4)\\&=0-(+4)\\&=-4\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}(-4)\underline{-(-7)}&=(-4)\underline{-(-4)-(-3)}\\&=\cancel{(-4)}-\cancel{(-4)}-(-3)\\&=0-(-3)\\&=+3\end{aligned}
$$
異符号の足し算
$$
\begin{aligned}\underline{(+8)}+(-3)&=\underline{(+5)+(+3)}+(-3)\\&=(+5)+\cancel{(+3)}+\cancel{(-3)}\\&=+5\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}\underline{(-12)}+(+2)&=\underline{(-10)+(-2)}+(+2)\\&=(-10)+\cancel{(-2)}+\cancel{(+2)}\\&=-10\end{aligned}
$$
以上のように、分割と相殺を駆使すれば一通りの正の数と負の数の足し算・引き算はできる。あとはかけ算・割り算だ。かけ算は次のようになる。
$$
\underbrace{4+4+4}_{\text{3回}}=4×3
$$
$$
\begin{aligned}(+4)×(+3)&=\underbrace{(+4)+(+4)+(+4)}_{\text{3回}}\\&=+(4+4+4)\\&=+(4×3)\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}(-4)×(+3)&=\underbrace{(-4)+(-4)+(-4)}_{\text{3回}}\\&=-(4+4+4)\\&=-(4×3)\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}&\kern{1.3em}\underbrace{(+1)+(+1)+(+1)+(+1)}_{4回}-\underbrace{(+1)}_{1回}\\&=\underbrace{(+1)+(+1)+(+1)}_{(4-1)回}+\cancel{(+1)}-\cancel{(+1)}\\&=\underbrace{(+1)+(+1)+(+1)+(+1)}_{4回}\underbrace{-(+1)}_{-1回}\end{aligned}
$$
上の例より,$${-(+3)}$$を$${(+3)}$$の$${-1}$$回のかけ算,すなわち$${(+3)×(-1)}$$として解釈することにする。
$$
\begin{aligned}(+1)×(-3)&=\underbrace{-(+1)-(+1)-(+1)}_{-3回}\\&↓※-(+1)=-1\\&=\underbrace{(-1)+(-1)+(-1)}_{3回}\\&=(-1)×(+3)\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}(-1)×(-3)&=\underbrace{-(-1)-(-1)-(-1)}_{-3回}\\&↓※-(-1)=+1\\&=\underbrace{(+1)+(+1)+(+1)}_{3回}\\&=(+1)×(+3)\end{aligned}
$$
以上より、負の数のかけ算には次のような性質があることがわかる。
$$
\begin{aligned}(+5)×(-2)&=(-5)×(+2)\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}(-4)×(-3)&=(+4)×(+3)\end{aligned}
$$
割り算についてはめんどくさくなったので割愛する。かけ算と同じように構成できるんじゃないだろうか。
なんとなく四則計算を導入してみたが、とりあえず計算するだけなら規則さえ覚えておけばいい。一応、以下にだいたい載せておく。
$${(+a)+(+b)=+(a+b)}$$
$${(-a)+(-b)=-(a+b)}$$
$${(+a)+(-a)=0}$$
$${-(+a)=-a}$$
$${-(-a)=+a}$$
$${(+a)×(+b)=+(a×b)}$$
$${(-a)×(+b)=-(a×b)}$$
$${(+a)×(-b)=-(a×b)}$$
$${(-a)×(-b)=+(a×b)}$$
$${(+a)÷(-b)=-(a÷b)}$$
$${(-a)÷(-b)= +(a÷b)}$$
基本的に符号と数字は分けて考えることをおすすめする。
正の数と負の数を用いて表すこと
正の数と負の数を用いることで、表せる数の世界が大きく広がる。ただものを数えて足したり引いたりしかできなかった算数が、ものの数以外の表現、位置や増減なども扱える数学になったのである。
互いに相殺する性質をもつものを同時に数え、計算することができるのが、この「正の数・負の数」という新しい概念なのである。
また、自由に引き算できるようになったということもまた重要である。正の数・負の数は、自然数の引き算と違って、どんな引き算でも許されるし、意味のある答えが得られる。それは、自然数よりももっと広い数の世界になったからである。
ここで意識してほしいのは、数の拡張である。新しい数の表し方を導入することで、今までよりも広い範囲の数を扱えるようになったこと、しかも今までの数と扱い方があまり変わらないということが大事な点である。
ちなみに、正の数と負の数の次の、数の拡張はおそらく「複素数(実数と虚数)」への拡張になるかと思う。あるいは新しい数の表し方としては「平方根」の方が先か。どちらも2次方程式と深い関係がある。ということで次の記事は「方程式」について書くことにする。
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