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ラフマニノフ「名のない愛の形」& バーンスタインへ妻フェリシアからの「ラブレター」

今回は『ラフマニノフ協奏曲第3番 by 亀井聖矢』動画公開記念として、ラフマニノフの短文とバーンスタイン夫人が夫レナードに送った手紙の、ちょっと切ないラブレター2本立てです。いつもの通り、直訳ではなく普段使いの日本語にしています。学術目的ではありません。では、センチメンタルな秋のお供に、どうぞ最後までお付き合い下さい🙇

ラフマニノフが5年間書簡を交換していた愛称Reという女性への手紙は、以前も訳を作りました(ラフマニノフ6「愛するRe」)。今回ご紹介する短い手紙は、1917年にラフマニノフとReが最後に会った時のもの。会う約束をしていたところ、ラフマニノフの到着が大幅に遅れたため、急ぎ書き送った手紙です。

ラフマニノフの手紙(1917.1.26 Rostovにて):

Dear Re, 大幅に遅れて今着いた。明日の朝発つ。もうここに来ることはないだろう。君にとても会いたい、でも私から君のところへは会いに行けない。公演前に君が音楽院に来ることはできないだろうか?二人だけになれると約束するから。6時半に来てくれれば、1時間半は一緒にいられる。私は君のために弾くから、君は私に君の近況を教えて、いい?

この時2人は会えましたが、これを最後に二度と会うことはありませんでした。ラフマニノフはこの年に祖国を脱出、Reことマリエッタ・シャギニャンはロシアに残りました。Reference: Bertensson, S. (1956) "Sergei Rachmaninoff: a lifetime in music."

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レナード・バーンスタインへの手紙

ラフマニノフコンチェルト3初演の地はニューヨーク。ニューヨークと言えばレナード・バーンスタイン(こじつけました)。妻フェリシア(当時30歳)が夫レナード(34歳)に書いた手紙をご紹介します。先日ロビンピアノさんがこの手紙の掲載記事を教えて下さいました。(Thank you, Robyn!)

妻から夫レナード・バーンスタインへ(1951か1952年):

ダーリン、今日あなたが車で走り去って行った時、私が悲しんでいるように見えたとしたら、それは私が捨てられたと思ったからじゃなくて、一人になって自分自身とこの悲惨な「結婚」生活のことを真剣に考えていたからよ.... そして、よくよく考えてみたら、この状況はそんなに悲惨じゃないのかもしれないって、思うようになってきたわ。

Ⅰ. 私たちは終身刑に服しているわけじゃない。解消できないものなんてないのよね、結婚でさえもそう(今まで私はそういう考えに縛られていたわ)

Ⅱ. あなたは同性愛者で、それは今後も変わらないでしょう。二重生活なんてあり得ないってあなたは言うけど、あなたのやすらぎ、健康、神経すべてにとって、ある特定の性的傾向が大事だったら、仕方ないんじゃない?

Ⅲ. 私には、ありのままのあなたを受け入れる覚悟ができている。別に自己犠牲とか、レナード・バーンスタイン様の祭壇に自らを捧げようとしているわけじゃない。(私、あなたのことが大好きみたい、これはビョーキだから、受け入れる以外に治療法がないでしょ?)

簡単じゃないかもしれないけど、でも「今のままでいる」のはツライもの.... 今、あなたは自分らしくいられない、そのことがあなたと私両方にとって辛い壁やストレスの原因になってる。だから、あなたは好きなように自由に行動していいわ、そして、罪の意識無しで告白もしなくていい。どうなるかやってみましょうよ、お願い!

あなたのストレスが消えれば、私はきっと大丈夫だから。あなたにとって他の誰からも望めないような関係をこれから作っていけるわ。あなたの私に対する気持ちもはっきりして、表現し易くなる.... 私たちの結婚は情熱ではなく、優しさと互いへの尊敬の上に成り立っているのだから、それを大切にしない?

そして、今はっきりわかった、私には仕事が必要。仕事は私の重要な一部であって、それ無しには自分が不完全に思えてしまう。すぐにでも何とかしたい。私は活動的な生活に慣れてるし、それにこれは、よくある自尊心の問題でもあるのよね

結婚が早過ぎたかもしれない。でも私たちは結婚しないとだめだったし、間違ってはいなかった。これでよかった、今こんな風に苦しんで、互いにみじめな思いをしているとしても。一緒にいようが別れていようが、いつか私たち二人とも成長して、何も恐れない強い人になれるわ.... 結局、『結婚』そのものより、個人としての私たちの方が大事なのよ

とにかく、私の愛しい大切なApe(お猿さん)、試してみましょうよ。危機?も時々はあるでしょうけど、もう取り乱したりしないわ。あなたも私も完璧じゃないって肩の力抜きましょうよ、『夫であり妻である』なんて堅苦しく考えないで!ね、そんなに悲惨じゃないでしょ

まだ書き足りないけど、薬が効いてきたみたい。またすぐに書くわ。私の今週の願いはね、あなたが私に申し訳ないって思わずにハッピーな気分で戻ってきてくれることよ   フェリシア 

この20年後、2人は別居、バーンスタインは若い男性音楽家と暮らし始めます。このことに激怒した妻フェリシアは「みじめで孤独な老人で死んでいけばいいんだわ!」と夫を罵倒します。バーンスタイン本人が回想しています。別居後まもなくフェリシアにガンが見つかり、彼女の元に戻って最期を看取ったバーンスタイン(フェリシア享年56歳)。妻の言葉を生涯忘れず、彼女が病に倒れたことについて、自分を責め続けたそうです。🔚Source: https://www.thedailybeast.com/felicias-letter-to-leonard-bernstein-you-are-a-homosexual-and-may-never-change?ref=scroll

唐突ですが、最後に、緻密で冷徹な分析に裏打ちされた、壮大かつエモーショナルな『亀井聖矢さんのラフマニノフ協奏曲第3番』をご紹介します、本当に素晴らしい演奏です💚