行きつけの靴屋さんがありまして。


わたしは靴が大嫌いでした。
昔から、履きたいと思った靴を履けたことがなかったから。

既製品でわたしに合うサイズは作られてない。カタチも独特で、既製品で合う靴はないと思いますよ、言われることもしばしば。履ける靴が限られるので、そこから服を選ぶしかない。それが嫌で、どうしてもヒールや可愛いサンダルを履きたくて、毎日血塗れになって歩いたりしていました。

そんなわたしが、毎日7センチヒールを履いて会社に行くようになりました。東京でこの靴屋さんに出会い、ハイヒールを履く、着たい服に合う靴を選ぶ、という喜びを得たのです。選択肢が広がる、感動そのものでした。そしてあの頃からファッション誌を買うことが好きになった気がします。

社会人になってからのわたしにとって、ハイヒールを履くことは仕事開始のスイッチで、戦闘着のようなものでした。厳しい仕事がある日はむしろ、ハイヒールを必ず履きました。ただでさえ背が高いので、最初は少し躊躇いましたが。それでも、あの背筋がパリッと伸びる感覚、後退りしそうな瞬間も一歩前に足を押し出してくれる、ハイヒール。毎日を闘い抜くために、必要不可欠な相棒でした。

そんな有り難さはあるものの、コロナ流行と共に在宅勤務も導入され、めっきりハイヒールを履く回数が減りました。あれだけ縋っていたにも関わらず、たまの外出でもつい、スニーカーやペタンコ靴に手を出してしまいます。どれだけ慣れても、歩くのはスニーカーの方が楽。どれだけ大事な相棒であっても、これだけはどうしようもないのです。

コロナ禍、そんなとある春の日。
行きつけの靴屋の前を通った時のこと。

そういえば最近靴買ってないな。
もうハイヒール履くことも減ったしな。
今持ってるだけで十分だな。
あ、ペタンコで可愛い靴ないかな。

そう思いながら店に入った瞬間、やられました。

！！！！！！！！

目の前に、赤いハイヒール👠
おなじみ7センチヒール、エナメル素材。赤過ぎず、肌馴染みのいい赤。デニムにもロングスカートにもワンピースにも、絶対合う。

久しぶりにテンションがだだ上がったわたし。
しかし即座にもう1人のわたしが現れる。

いやいや、履かないでしょ！
最近ハイヒール履いたのいつ？
会社にハイヒール履いていかなくて良いんだよ？
しかも赤って、今まで履いたことないじゃん。
無難な色の、履きやすい靴にしときなって。

ええ、確かに言う通りです。
スニーカー通勤もOKで、ハイヒールを敢えて履く必要はどこにもない。久しぶりに履くハイヒールは、今まで以上に疲れる。しかも赤って、そもそも会社履いていっていいのかな。浮くかな、わたしには似合わな、、、

やめました。
そんな事を考えるのは。


わたしは敢えて今、
ハイヒール、赤を履こうと思う

通勤楽チンなスニーカー通勤、バンザイ！

しかし、そんな今だからこそ、ハイヒールを履いて、あの頃の緊張感を少し取り戻したいと思ったのです。
そしてその色は、黒でも紺でもベージュでもなく、今みで選んだことのない、赤で。

ハイヒールで背筋を伸ばし、赤で気持ちを新たに。

そんな相棒と一緒の自分を想像したら、なんだか仕事仲間にも、友達にも、会いたくなった。
そしてそんな風に思う自分にも、会いたくなった。

自由に、選択肢がたくさんある時代。
スニーカーを選んで、たくさん歩くもよし。
敢えてハイヒールを選んで、パリッとするもよし。

わたしは今敢えて、ハイヒール、赤を選ぶ。

昔なら絶対選ばない、赤。
気持ち新たに、敢えて少しパリッとするのも、悪くない。

評判も、上々です👠