小説:薄皮の恋

 川坂くんはあんまり背が高くなくて、喋る時いつも声が力んでて、ちょっとおどおどしてる頼りな~い感じの男の子なんだけど、わたしは最初にバイト先に入ってきた時から可愛くていいなと思っていて、何度か話しかけてからLINEを交換することにする。顔立ちは垂れ目な童顔タイプで、まあわたしは昔からこういうタイプの男の子に弱い。「自分に自信がないからそういう自信のない子に寄ってちゃうんじゃないの?」と、幼馴染の優紀乃にもズバッと言われちゃうけど、実際そうかもしれないな……と自分で思う。自信がないくせに人に引っ張られるのが苦手で、逆に自分程度の力でも引っ張れるくらいの相手をあえて選んでるってことかもしれない。
 こんなことをいつも考えてるから、わたしの恋愛は長続きしない。相手に自分の弱みを見せられなくて、結局薄皮一枚分の付き合いしかできない。『あなたが好き』以上のことが起こらない。
 今回だって無事に付き合えたところがピークとして満足しちゃうのかな……いや、今度こそは自分を変えるんだ……! と思いながら、LINEで川坂くんとやり取りしてるけど、相変わらず当たり障りない話と、お世辞じみた誉め言葉しか出てこない。これでチマチマやってると、気の小さい女慣れしてない感じの子は押し倒せたりするんだけど……とかやってると、いつの間にか後ろから画面を覗き込んでた優紀乃が「何? また陰キャのチョロくてダサい奴と付き合おうとしてんの?」と、ぶちかましてくる。
 いや、言い方酷すぎ……。
 わたしは「どんな理由であれ、わたしが好きになったんだから優紀乃は口挟まないでよ……」と言い、そそくさと席を立ってテーブルから立ち去る。
「口を挟むくらいの権利はあるでしょ。わたしは外野じゃなくて、あんたの幼馴染なんだから」と、遠ざかるわたしの背中に向かって優紀乃が声をかけてくる。わたしは何も返さずにスマホを両手で握って早歩きを続行する。
 頭の中に川坂くんと優紀乃の乗った天秤があって、それは明らかに優紀乃の方に傾いていた。まったくその通りだ。薄皮一枚分の付き合いしかしないであろう男の子よりも、芯まで食べ合った親友の言葉を重んじる方が正しいに決まっている。
 だけど、皮は奇麗な色をしていて食欲をそそるのだ。芯のように汚くて固い部分と違う。わたしはまたそんなものに騙されようとしている。あーあ。汚くて固い部分の美味しさだってわかっているのに……と思いながら、わたしは川坂くんに作り笑顔のLINEを返すのだった。


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