第78号『それはまるで範馬勇次郎の笑みでした』

モントリオールに着いて不便することがある。

ひとつはパンツと靴下。

というのも私は基本的に荷物を持ち歩かない。よっぽどのことがなければ。

誰かに何かを頼まれて“社長お手数ですが(嫌だと思いますが)これを今回の出張でスーツケースに入れて持って行っていただいてモントリオールスタジオのヤマノウチさんに渡していただけますか?”って言われると嫌な顔ひとつせず(内心嫌だが)“もちろん、わかったよ”と伝えて持っていく。

正直に告白すると嫌だけど、スーツケースを持って飛行機に乗る。(そして荷物を持ち運んで相手に渡す)

普通の人からすると“何言ってんだ?別にいいだろ、それくらい。フツーじゃん”って思われるかもしれませんが。私は普段から一切何一つ持ち歩かずに移動します。

それがどんなに近くても遠くても。

いや、もちろん、それが全部叶うわけではありません。“そう”思っていても誰も同行できない時にプレゼン資料を持参しなきゃいけない時はもちろん自分で持って行きます。(当たり前ですが)

あくまで基本的な話です。

本当に基本的に本心の話なのですが。

“できれば”なにも持ち歩きたくないのです。

これは普段全く病気しない私が、今から15年ほど前に全く原因不明の“ぎっくり腰”になった時のこと。

まるで自覚がない私に医師はこう伝えました。

“リュックを背負ってますよね?あれは人体の構造的に良くありません。やめましょう。荷物は出来れば手で持ちましょう。なるだけ片手では無くそれぞれの手に同じ重さの荷物を持つように心がけてください。いいですか?片方の手だけで持つとまたバランスを崩して腰を痛めますよ?”

話を聞いた直後から“???”で、医師にも即座に“両手に同じ重さの荷物!?そんな人いないでしょう!?なんすかその若い頃のジャッキー映画の修業シーン!?つか、先生もそんな持ち方してないでしょう!?”って言うと“私は腰を悪くしてませんから”って言われました。

あー、はい、みなさん、言いたいことはわかりますし、なんなら私も同じ気持ちですが、今回のメインはそこでもないので。話を先に進めます。

ともあれ、私は基本そーゆー経緯でそこがどこであれ“荷物を持たずに移動するの精神”が身についてしまい、全国いや世界中どこでも手ぶらで旅に出るようになりました。

その結果、渡航先の現地で毎回のようにパンツと靴下を購入して着替えるようにしているのです。

ただ、どこの国も靴下はお土産として販売しているお店が多いのにパンツはなかなか売ってない。

理由はまぁわからないのでもういいです。仕方がないと受け止めてだいたい毎日ホテルに戻って自分のパンツを洗うのです。そしてハンガーを連結させてエアコンの前に浮かべて乾かしてから寝るようにしています。

写真に撮るとだいたいこんな感じです。

まぁ、誰にもあんまり理解されないのでもういいです。

もう一つの話をします。

私が海外に行って苦労することのもう一つは“お酒”です。

はい、飲むためのお酒です。

私は毎日お酒を飲みます。

どれぐらい飲むのか?と聞かれると、健康診断の前4日以外なのでざっと年間綺麗に361日飲んでることになります。

みなさん“はぁ!?それ体壊すでしょ!?”って毎回言われますが、生まれてこのかた47年間健康診断で引っかかったことがないですし、どこを検査しても健康優良不良中年です。

なのでそこはほっといてください。

とにかく私は今から15年ほど前に集英社という会社と仕事をするようになってお酒無しでは生きていけない身体になってしまったので飲み続けるしかないのです。(その辺の話はまた今度)

毎日お酒を飲みたくて(飲まなきゃいけなくて)仕方がないのです。

飲まないと眠れないレベルです。(アル中ではありません)

なので(仕方なく)スーツケースを持ち運ぶ時には中に焼酎のボトルをあらかじめ入れてたりするのですが、基本的に何も持ち運ばない時は現地調達するしかありません。

めんどくさいって思いますか?

なんてことはありません。

靴下同様、現地で買えばいいのです。

お酒が売ってない地域なんてこの地球上に存在しないんですから。

そう、思って実は毎回苦労するのがこの“お酒の購入”。

今回のモントリオール出張でもやはりそうでした。

1日の仕事を終えてさぁホテルに向かうか!って時に(パンツと靴下とお酒を買う為に)ヤマノウチに“どこかコンビニある?”って聞くと“コンビニなんかこっちには無いです”って言われる。“え、そーだっけ?まーいーや、ビールか焼酎買いたいんだけど?”って伝えると“お酒は基本的に販売されている時間は夕方までです。だからもう売ってません。ホテルのバーで一杯飲んでから寝てください”って当たり前のことを言われる。

もちろん“売ってないなら仕方がないな。言われた通りホテルのバーで一杯だけ飲んで部屋で寝るか”そう思ってその通りに行動してもやっぱり時差とかですぐ目覚めてしまいます。(この時点でとっくにパンツと靴下はあきらめる)

そしていつもやっぱり寝れなくなる。

ここでお酒の力を借りて寝ても良くない、ってわかっていても物理的に眠りたい!なのに眠れない現象が発動する。案の定、翌日は喉がカラカラで全く渇いた状態で1日の仕事をこなすことになる。こんなことなら気休めでもお酒の力を借りてでも“3時間以上寝て【寝た気】になりたい!”って毎回思う。

だから。

今回のモントリオール出張で晩御飯食べてから、ヤマノウチに“どこかお酒売ってるかな?”って聞くと案の定“社長、この時間はもうお酒は売ってるところは限られてます。あと度数によって販売できる所が決まってます。ホテルから遠くに行けばウィスキーや焼酎も売ってるところがありますがタクシーでかなり移動しなければなりません。ホテルから近くのお店ならビールが売ってます。そこでビール買って戻りませんか?”って言われる。

もちろん、現地スタッフにそんな面倒をかけたくもないので“ああ、もちろん、ビールでいいよ”って伝えてビールを買ってからホテルに戻る。

そうするとやっぱり夜中というか24時過ぎに目が覚めて結局眠れない。ビールではいくら飲んでも眠れないのである。(アル中ではありません。ただビールでは眠れないだけなのです)そのまま朝まで仕事したり漫画読んだり映画観たりして翌日を迎える。

もちろん翌日も朝から一日中いっぱい予定を入れてるので夕方には喉がカラカラになる。けど、もう観念してやり切るしかない。

そんな出張を続けてるとだんだんわかってくる。

スーツケースさえ持ち歩けばその中にお酒を入れて飛ぶこともできる。

けど荷物を持ち歩きたくないんだから、現地でお酒が飲めなくて不便するのは仕方がない。

これは等価交換だ。

全く世の中というか神様はうまくバランスを保って均衡を作ってやがる。まぁ、もし、この世に神様がいれば、という前提の話だけどな、とか思い始める。

そんなモントリオール出張2日目の日中。

忽然として。

サイバーコネクトツーのブースに女性がやってきた。

現地のモントリオールスタジオの産業支援をやっている行政に勤めている女性だ。

ブースに挨拶に来て“今回は来てくれて嬉しい”とか“今後のスタジオの展望は?”なんてことを聞いてくる。

もちろん情熱的に“我々がどれだけこの街と行政に期待しているか”という話を力の限り伝える。喉をカラカラにしながら。

横でヤマノウチが愛想笑いをしている。

そんな時。

その女性が“これはつまらないものですが”と言ってお土産を渡してくれた。

“ありがとうございます!”って元気に返事をしつつ中を見ると“メイプルシロップのポップコーン”やイベントのキャップなんかが出てくる。

正直、私はこういうお土産が苦手だ。

だって“何にも荷物を持ち歩きたくない人間”にとってはただ荷物が増えるだけだ。

むしろ絶対に持ち歩かないので結局ヤマノウチに“これスタジオのみんなで食べて!”って渡してるくらいだ。

もちろん私も一口くらいは食べたりもするけどほとんどはスタジオのスタッフで美味しくいただいている。

けど相手にとってはそうじゃあない。

渡した相手は私なのだ。

きっと相手は私が一人で堪能して楽しんでくれているに違いないなんて思っているのかもしれない。

そう考えるだけで心が苦しい。

苦しくて仕方がない。

そう、考えていた、その時。

そのバッグの底に。

瓶の感触があった。

まぁ、慌てちゃいけない。

現地のことを考えなきゃいけない。

だいたいこういう場合はあれだ、メイプルシロップの瓶詰だ。

モントリオールのあるカナダの定番のお土産だ。

この手のひらに収まる丁度良いサイズにも見覚えがある。

期待するな。

どうせ。

そう、思って。

バッグから瓶を取り出すと。

それはウィスキーだった。

正真正銘のお酒。

度数40度もあるモントリオール産のウィスキーだった。

横にいるヤマノウチの視線を感じる。

瓶を手に取り喜んでいる表情を見せると女性は私に聞いて来た。

“これはモントリオールの地元で作られたお酒です。松山さんがお酒が好きかわかりませんが用意しました。お酒は好きですか?松山さんがまたモントリオールに来ていただく理由になるかわかりませんが。また来ていただけますか?”

横にいるヤマノウチの視線が刺さる。

私は瓶を持った状態で真っ直ぐに女性の目を見て答えた。

“理由?そいつぁ大アリだぜ!”

ヤマノウチの目から見た“ソレ”はジャック・ハンマーの問いかけに答えるまるで範馬勇次郎そのものであった。

邪悪な笑みで溢れる白目が眩しかった。

という記事をそのウィスキーを飲みながら書いた。(グイ)

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私もそんなあなたが大好きです!ありがとうございます。
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松山 洋

コメント2件

ぴろし社長、今回の記事、個人的には楽しめました。何というか、画面から『酔い』の伝わってくるような文章でした。女性読者諸氏におかれましては十二分に母性本能を刺激されたと思われます。(あくまでも個人的には)このようなギャップを垣間見るような趣向のエンタメもたまにはいいのではないかと思いましたが、如何でしょうか(o^^o)

きっと次回からは有能な社長秘書様が予め現地スタッフに『社長のパンツと寝酒』を指示されることと推察致しております(笑)
そういっていただけると嬉しいですが。。。ホントにみっともなくてすいません、反省します。
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