※映画のネタバレも含みますので
 ご注意ください。


備忘メモとして
昨日鑑賞した映画のお話を。

映画『PERFECT DAYS』(2023)
ヴィム・ヴェンダース監督

言葉以外での社会彫刻を感じました。

ヒラヤマさんの沈黙の心地よさ。

わたしも、周りからは意外だと言われても
かなりの口下手である。
放っておいたら全く喋らないこともある。

何も思っていないかというとそうでもない。
頭の中は指の先までうるさい方だと思う。
何を発するのか選びたかったり
言葉になる前の感覚で遊びたかったり。


言語化ばかりに頼らず生きることにも
豊かさが宿る。
と思う。
少なくともこの映画のヒラヤマさんは
そう感じさせてくれる。
表現方法は口語だけではない。

和尚さん、カメラ屋さんとの
ほぼ言葉無しの会話も心地よさを感じた。
古本屋とのコミュニケーション、店主が熱弁し、ヒラヤマさんが本を手に表情だけで返す。ある意味、ちいかわみもある。


いつものお店に通い続けること
影踏みで目の前の人を励ますこと
好きな音楽・本をシェアして心を通わせること

それらだってコミュニケーションである。


直近で読んだ動物学者の対談本を連想する。

これは極論ではあるが、
「動物学者にとって哲学者は敵」
という説もある。なぜなら、
言語をもつ人間ばかりえらい、ような解釈をされてしまうから、と。

言語を持たない生物間では
美徳・身体性のある道徳が重んじられる。

ここからは自分の解釈であるが、
テキスト化が進み、身体性が損なわれた時
そこには形骸化されたルールが残り
道徳や美徳は置き去りにされてしまう。

言葉をもたないグルーミングで意思疎通する生物間にはあって、
「法律には触れていないから」とルールにばかりとらわれ、合理的に生きる人間にはないもの
とは。


映画の話に戻る。
ヒラヤマさんには目立った友人はいない。

だがしかし、
ヒラヤマさんは多趣味だ。

写真、テープ集め、植木、読書
それぞれ、どれだけの歳月がそこにあるか
映像だけで伝わる。

彼の部屋に誰も上ろうとも
上がらずとも
それらの豊かさは変わるものではない。

個人的な話としては、
去年に「1人遊び」を研究テーマとして
今年は「自己満足」をテーマと考えており
誰かとシェアせずとも
ただ自分がしたいから
自分と会話するような
営みを大事にしたいと
ヒラヤマさんをみて思った。

お気に入りの現像写真を缶に残し
微妙な写真を破り捨てる工程
誰のためでもなく
自分のためだけのものであることに
尊さがあった。

作品で発されるメッセージについて
話を移すと、

スナックのママが呟いた
「どうしてずっと同じではいられないのかな」
という一言や
影を重ねて濃くなるのか実験するシーンで
「同じな訳がない」
とヒラヤマが珍しく語気を強めるなど(このシーン自体は生命の重さの文脈であったけれど)、
全ては一回だということが繰り返し主張されていた。

極め付けは、ラストの
木漏れ日に関する説明。
木漏れ日が日本にしかない概念
だと初めて知った。

儚く変わっていくもの。

影や光の移ろい。
昨日まで会えた友人と
次の日にはもう会えない現実。


あと、
忘れてはならないのが
もともと今回鑑賞のきっかけとなった
映画音楽について。

ニーナ・シモンのfeeling goodを
あわ研のたかさんが
Instagramのストーリーで使われていて
楽曲へのコメントをした際、
この映画のことを教えてもらった。

ニーナ・シモンのfeeling goodは
フランス映画の「最強のふたり」でも
非常に印象的なシーンで使われている。
大好きな曲だ。
(カバー曲まで言及し出したら、止まらなくなるため、ここで止めておく)

カセットから流れる
60〜70年代ブルース。

ストーンズ、パティ・スミス、
オーティス・レディング…などなど
ヒラヤマさんのもつカセットテープは
よだれが出そうなラインナップだ。

テープを選ぶシーンで
ジャニス・ジョプリンがみえて、
「かけろ〜かけろ〜」
と念を送っていた。

残念ながら流れなかったが。


控えめに言って最高。
ヒラヤマさんが現実にいたら
お友達になりたい。
日々、無言で会釈しあいたい。


最後に、
役者さんについて。

田中泯さんの贅沢使いにはびっくりでした。
いるいる、いらっしゃる。
つい公園で残像をみそうになる。

そして役所さんの笑顔がラブリー過ぎる。
カンヌ男優賞受賞、おめでとうございます！


70年代音楽が好きな方
成長ばかり問われる社会に疲れた方
静かに役所さんの笑顔に癒されたい方

ぜひおすすめです。