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君はいつだって幸せな顔をしている

暑さが少しばかり緩みかけた、風の強い夕方のことだった。
「さっきから、ずっと猫の鳴き声が聞こえる」と、帰宅した私に夫が言った。たしかに、耳を澄ますと、にゃあにゃあという声が聞こえてくる。
宮古島市は野良猫が多く、私たちの住む伊良部島も例外ではない。まあ、どこかの野良がお腹でも空かせてるんじゃないかねと適当に答えた。
夜になり、所用で出かけようと家の外に出ると、まだ猫の声がする。
用事から戻ってきても、まだ猫の声。

夕方から何時間鳴いているの?もしかして、ずっと?

さすがに気になって声の出所を探すと、声の主はすぐに見つかった。
自宅のすぐ近く、小さなさとうきび畑のすみっこで、ハチワレの仔猫がにゃあにゃあと何かを訴えて叫んでいた。

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その様子を放っておけずに連れ帰って、とりあえずご飯代わりにシーチキン(水で洗って油を落としまくったやつ)を食べさせた。モリモリ食べた。

近所の半野良が集まっている家から来たのでは?と、そこまで仔猫を連れて行ってみた。
野良猫たちが数匹集まってくるが、誰も仔猫を連れて帰る素振りを見せない。仔猫も、成猫に甘えるどころか、ちょっと怯えている様子だった。
私たちがその場を去ろうとすると、仔猫は足元に絡み付いて一緒に付いてきた。

どうしようかねと迷いつつ、まずは一晩、家に入れて過ごした。
翌朝、ふと見ると仔猫は腹を出して爆睡していた。
いつ出て行ってもいいようにと玄関の扉を開けていたのに、仔猫は私の膝に飛び乗って丸くなってしまった。

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仔猫には、小雪という名前を付けた。
可愛らしい容姿と細い声、白黒のカラーリング。いかにも大和撫子な風情なので、和風の名前が似合うと思ったのだ。
周りに猫の名前を教えると、半数くらいは江口洋介の物真似を返してくる。世代である。

更に数日後、検査のために連れて行った動物病院で、この子は女の子じゃなくて男の子ですよと言われてアワアワした。改名はせずに、小雪(メンズ)のままで行くこととなった。
月齢はまだ1ヶ月半。ポヤポヤの仔猫だった。

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夫婦ともに猫を飼うのは初めてで、それ以前に、実家を出てから動物を飼うのも初めてだったので、最初は些細なことでどきどきした。少し食欲が落ちたら病気を疑い、半日家を空けるのもソワソワして落ち着かない。
生き物を預かることの怖さを実感した。

仔猫も成長に従って色々な変化があり、その度に振り回された。
甘えて夜中に人間の指を延々と舐める癖ができてしまい、一時期は人間の方が体調を崩したこと。(ひどい寝不足から膀胱炎になった)
ちょっとした窓の隙間からすぐに脱走して、その度に必死になって呼び戻したこと。
ごはんが合わず、食欲不振になった時期。
逆にモリモリ食べ過ぎて、もっちりと太った時期(義母曰く「これは小雪じゃなくて大雪」)。
数日間もトイレに排泄の跡が見られず、ひどい便秘にでもなったかと焦ったら、ベランダのプランターから大量のうんこが見つかった日。

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小雪と私たちが出会ってから、先日で一年になった。
大人になった猫は毛艶もよく、毎日やわらかくて、眉間のあたりを撫でると目を細めて嬉しそうにする。
拾った日もそうだったけれど、とにかくよく鳴く子だ。何の欲求なのか分からないニャーをいつも山ほど声に出してくる。
やんちゃで甘ったれの可愛い子だ。

この子はうちに来て幸せだろうか?と、よく思う。
天候が荒れるたび、嵐吹きすさぶ音を聞きながら、お前は家の猫になって良かったねえ、雨にも濡れず風にも当たらずに済むからねえ、などと身体を撫でながら恩着せがましく言ってみているが、当猫が実際、何を考えているのかはさっぱり分からない。
でも、きっと猫はこの生活がずっと続くのだと、疑いもせず信じているであろう事だけは分かっている。

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ずっと彼が幸せな気持ちで暮らしてくれるようにと願いながら、今日も私たち夫婦は猫への奉仕を続けるのだ。
(先日は猫タワーが届きましたヤッター)(登ってくれませんでした)

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