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月のような人(シロクマ文芸部)

布団から出ると、そこは雲の上だった。

歯が抜ける夢をみたので、嫌な予感はしていた。

今日は何もできないな。

この後、美容室でゆるめのスパイラルパーマでもかけようかと思ったのに。

その後、阪急メンズ館にでも行こうと思っていたのに。

その後、YouTubeで至高の唐揚げのレシピでも調べて作ろうと思ったのに。

その後、それをつまみにタコハイでも呑もうと思ったのに。

そんなことを考えていてもしょうがないので、下を覗いた。

雲の上から見える景色は大したことなかった。

飛行機に乗ったときにみれるし。

当たり前だけど、

自分がいなくても、自動車は走っているし、

自分がいなくても、公園で犬が散歩しているし、

自分がいなくても、パントマイマーはロボットのような動きをするし、

自分がいなくても、日は暮れる。

月が出てきた。

小さい月は毎日会っていたが、大きい月は初めましてだ。

大きい月は優しく自分を照らした。

なんか、この瞬間のためにここにいるのかもしれない。

そう思った瞬間。

雲が切れて地上へ落ちた。

ジェットコースターよりバンジーとかの方が意味分からなくて怖くないみたいなことを聞いたことがあるが、普通に怖かった。

でも乗っていた布団の毛布がパラシュートのように膨らんだおかげで無事着地した。

自分がいても、自動車は走っているし、

自分がいても、公園で犬が散歩しているし、

自分がいても、パントマイマーはロボットのような動きをするし、

自分がいても、夜は明ける。

自分も誰かの月になれるかな。

阪急メンズ館には、誰かへのものを選びに行こう。

(641文字)

以下、企画に参加させていただきました。

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