【エッセイ】死んだまんま眠ってる猫

「猫が死んじゃった。どうしよう」

1時間程度の残業を終えて、会社を出たところで母親から電話があった。

久々に聞いた母親の声は、それ以外は何を言っているか分からなかった。

こんなに冷静さを失っている母親は初めだった。

というか嗚咽するほど泣きじゃくる50歳オーバーの声を初めて聞いた。

自分は実家を出ているので、毎日猫とは顔を合わせていない。

もし実家に住み続けていたら自分も同じようになっていたかもしれない。

いつか必ず来るこの日を、目の当たりにしなくてよかったと少し思ってしまった。

実家で飼っていた猫。20歳。

人間年齢に置き換えると100歳らしい。

大往生だと思う。

動物が触れない僕と弟がもらってきた猫。

世話をするからという約束でもらってきた猫。

でも結局母親以外からは世話をしてもらってない猫。

雑種の猫。

枕元で毎日吠える猫。

テレビの上で眠ってる猫。

PSPの充電ケーブルを定期的に噛みちぎってた猫。

薄型テレビが来たら眠る場所がなくなった猫。

と思ったら、どうやって登ったのかエアコンの上で眠ってる猫。

2歳の娘に懐かれなかった猫。

お別れを言いに行くために電車に揺られる1時半。

たまの牛乳を聴きながらこのエッセイを書いた。


実家に着いた。

化粧がぐちゃぐちゃになっていた母親。

サウナグッズで涙を拭いていた父親。

座布団の上で死んだまんま眠っている猫。

目が開いていたから起きてると思った。

でも体は冷たかった。

呼吸の音が聞こえた気がした。

口に耳を近づけたけど、気のせいだった。

最後まで別れの言葉が口から出ず、ただ猫を眺めるだけの時間が流れた。


帰り道。

昼間は暖かく感じた気温も、夜中はいつも通り寒かった。

このエッセイ、書き始めたのはいいものの、
どう締めていいかわからないので、無理やりこの辺で終わらせる。完。

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