白の中のGORE-TEX(シロクマ文芸部)
雪化粧した庭を見て心が躍った。
布団から飛び出し、顔を洗おうと永遠に水の出ない蛇口を捻った。
寝巻のまま玄関に向かいGORE-TEXの靴をおろした。
陽の光が地の雪に反射して眩しい。
雪の上を歩いているが靴下が濡れない。
感動したので今度腕に『GORE-TEX』とタトゥーを彫ると決めた。
雪の白さと陽の光で目に映る全てが白になった。
ただ白の中をGORE-TEXで歩く。
何もない。
誰もいない。
四天王の部屋のドアの前で“なみのり”したっけ。
さっきまでは前と後が分からなかったけど、今は右と左も分からなくなった。
更に足を進めると上と下も分からなくなった。
自分も白の一部になってきたような気がする。
最初から白になるために生まれてきて、ただその順番が来ただけなのかもしれない。
GORE-TEXを履いた足は止まった。
白にはなりたくない。
白以外の景色に感動したい。
もっとGORE-TEXの凄さを堪能したい。
腕にも『GORE-TEX』と彫りたい。
白になりつつある指でGORE-TEXの靴を撫でた。
顔に白の破片が飛んだ。
GORE-TEXが白を弾いたみたいだ。
そして、
GORE-TEXは白を駆け抜けた。
GORE-TEXと白以外の景色を探した。
右に200歩。
下に256歩。
左に63歩。
進んだ先で白は終わった。
水の音が聞こえる。
蛇口から、じゃあじゃあ水が流れている。
溢れ出てた水は足元に流れる。
GORE-TEXは水を綺麗に弾いた。
(598文字)
以下、企画に参加させていただきました。
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