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自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験 令和5年度東京大学学部入学式祝辞

令和5年度東京大学学部入学式祝辞
グローバルファンド 保健システム及びパンデミック対策部長 馬渕俊介氏

私自身が尊敬する人々の共通点は、それぞれが頑固たる自分の物語を持っていて、それらは大抵、自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験によって築かれている点。

自然界における畏怖、この地球に同じ時代に生きる伝統文化、全く別世界の人々の暮らし。デジタル化がどんどん進む現代の生活では、自分の考えを覆す情報はいっさい遮断して、意識的にも無意識的にも、自分の「固定概念」を強化する情報にだけ囲まれて暮らすことが容易になっているけれど、自分の考えを根底から覆す何かに出会った人は、その後、自分の物語を築き上げるのに夢中になれる気がする。

そんなことを思った、令和5年度東京大学学部入学式祝辞だった。

文化人類学の授業でパプアニューギニアの先住民のギサロという儀礼を見たんですね。そこで、すさまじい衝撃を受けました。めちゃくちゃ格好いいと。こんなに我々と全く違う世界観の社会に住む人々がいるのかと。

「めちゃくちゃ格好いい」儀礼との出会い。でも、その衝撃な儀礼を行う場所で見た、子どもたちやお母さんの持つ病気や栄養失調。

自分は、学者としてそこから学ぶだけで終わりたくない。人々が自分たちの文化に誇りを持ちながら、理不尽と戦って、日本なら簡単に直せる、あるいはかかることもない病気に命や可能性を奪われずに人生を生きられる、そのサポートをしたいと思うようになりました。大学時代に抱いたこの夢は、その後のキャリアの中で徐々に形になって、今も続いています。

・心震える仕事をして欲しい
好きなことをやってないと、幸せの尺度が「自分が他人にどう評価されているか」になってしまう。他人の評価を気にする他人の人生ではなく、自分がやりたいことに突き進む自分の人生を生きてください。
・夢は、探し続けて行動し続ける人にしか見つけることはできない

そして、あらゆる旅行、学問、業界の経験を組み合わせて、課題解決に挑むこと。ワークライフバランスではなく、あらゆる経験を自分の中で越境させること。

私のエボラ対策の例では、文化人類学の考え方、感染症対策の専門性、民間の経営コンサルティングのスピード感と問題解決力の3つを組合わせで持っていたことが、大きな助けになりました。民間と公共の壁や、医療と文化、社会の壁などを「越境」した経験を持って、問題解決をまとめる力は、問題がどんどん複雑になるこれからの世界では、本当に重要になります。

環境が人を作る
凄い人たちの中で、あるいは修羅場に身を置いて、難しい挑戦を続けていると、それが普通にできるようになって、その次のさらに大きな機会に手が届くようになります。

時間がすごく限られている中で、考えるべきリスクは、何かに失敗するリスクではなくて、難しい挑戦に踏み込まないことで、成長できず、なりたい自分になれないリスク、世界に対してしたい貢献ができないリスク、行動を起こさずに「現状に留まることのリスク」だと思います。

「問いが盛んな場所へ」でも書いたけれど、創造性に富んだ人々ほど、創造的な好奇心を保つため、自分に適切な刺激を与え続けることを心がけている。

私自身、仕事で、大学生に出会う機会がよくある。それは、インド人の学生たちでもあり、日本人の学生たちも多い。日本人の学生たちを見ていて思うのは、みんな、それぞれ「著名な大学」に在籍しているのだけれど、どこか、自分にとっての「最適解」を最短距離で探そうとしている気がする。今回の東大の祝辞を聞いて、当の本人たち(東大入学者)がそれぞれどう考えて、どういう道を歩もうと考えたのかは、本人たちに聞かないとわからないけれど、大事だなと思うのは、

人の話を聞いて、行動を起こすときの行動力よりも、

結局、自分が、圧倒的な魅力をもって「破壊」される経験、実体験を通して得られる行動力のほうが、自分も驚くほど凄まじく、持続可能なこと。

そして、どんな分野でも、最初に基礎知識(疑問の余地がないことがはっきりしている土台となる知識)を身につけてからでないと、自分で探求や洞察を深めることはできないということ。誰かの話を聞いて、行動を起こす、それはそれでスゴイのだけれど、それ自体が、他人の物語を生きている気がして否めない、面倒な考え方をする自分・・・笑

それが、外交に関わりながら、読書と旅を続ける自分が思うことでもある。
ちなみに、こちらのカバー写真は、Museum of Goa インドのゴアにあるミュージアム。


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