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あなたを選んでくれるもの

"きっとわたしはこの経験を下手くそに再現するだろう。本物よりもちょっと不出来で面白くないものしか作れないのだろう。でもそれをわたしは"村の役人ども"の命令でやるのではない。"2015年発刊の本書は映画撮影でスランプに陥った著者がフリーペーパーに売買広告を載せている人達を取材したフォト・ドキュメンタリー。

個人的にも映画監督であり、小説家であり、アーティストとしても活躍している著者が好きな事、また【フリーペーパー専門店を運営している立場として】本書の内容が気になった事から手にとりました。

さて、そんな本書は映画『ザ・フューチャー』の脚本づくりに行き詰まった著者が、郵便受けに届く『売ります』広告の無料小冊子『ペニー・セイバー』に売買広告を載せている"ちょっと変わった人たち"12人。革ジャケットを売っている性転換中の男性、オタマジャクシを売る高校生、ヤマネコを売る自宅動物園の女性、他人のアルバムを売る女性などなど。様々な事情はあるも共通して『インターネットを利用しない』人たちに取材していくわけですが。

まず最初に思ったのは、著者自身は普段出会わないであろう、どちらかと言えば生活保護を受けている"貧しい人たち"に話を聞いて感じた感情、驚きや不快感を(嫌味なく)そのままに描いていて、多民族国家『アメリカの格差や多様性』が対照的にリアルに浮き彫りになっているように感じたり、またアメリカのみならず【インターネットを使用しない人たち】の存在をあらためてイメージするきっかけになりました。

また、執筆当時は制作中で、本書でも裏話的な事情が並行して語られている映画『ザ・フューチャー』も読後に鑑賞しましたが、本書の取材で著者に強い印象を残し、結果【映画にも出演している】"クリスマスカードの表紙部分のみ50枚を1ドル"で売る高齢男性こと"君らはまだ始まりの途中なんだよ"のジョーとのエピソードは【出来過ぎな位に感動的】で。2人の同棲中の男女の姿を描く映画を鑑賞しながら、ジョーの登場シーンや台詞にはじんわりとくるものがありました。

マルチアーティストである彼女のファンはもちろん、SNSではなくリアルに【他者と出会い、繋がること】の意味を再確認したい人にもオススメ。

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