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狭き門

"主よ、あなたが示したもうその路は狭いのです。ー二人ならんでは通れないほど狭いのです。"1923年発刊の本書は体制と戦う知識人としても知られた著者による【地上の愛(エロス)と天上の愛(アガペー)の狭間で苦しむ】恋人たちの姿を回顧録と日記の二段構成、平易かつ類がない緊張感溢れた精緻な文章で描いた不朽の名作。

個人的には聖書の授業がある学校を卒業した事もあり本書のタイトルにして聖書から引用された『狭き門』には言葉として親近感がありつつも苦手意識もある複雑な感情から何となく未読だったのですが。そろそろ読むか!と手にとりました。

そんな本書は【一つの男女間の悲劇的恋愛】を著者自身も強く投影されていると思われる【男性側の回顧録】といった形『全体が分かる物語』として前半180ページ。発見された【日記という女性側視点】といった形で信仰心と愛情の狭間で苦しんでいた心情や葛藤といった『細部を対比させる』後半40ページの二段構成となっているわけですが。芥川龍之介の『藪の中』を彷彿とさせる『同一の事象を複数の視点で描く』見事さ、また翻訳を経ても行間から確かに伝わってくる文章の冴えに唸らされました。

一方で、キリスト教に全く縁も所縁もない人にとってはシンプルで【質の高い恋愛小説】として、それはそれで楽しめると思うのですが。私みたいにちょっとかじりでカトリックやプロテスタントといった視点でキリスト教を眺めてしまう人には、ヒロインのアリサの神への信仰を【純粋で理想的】ととるか、恣意的に【過激、過剰】に描いているととるか。で本書の評価は真っ二つにわかれるだろうな。とかやっぱり思いました。(因みに私は後者の受け止め方でした)後はパスカル。。(笑)

美しい古典的恋愛小説を探す誰か、読みやすくも様々に読み解ける物語として、例えば読書会の課題本を探す方にもオススメ。

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