見出し画像

ドン・キホーテ後篇三

"友のサンチョよ、どうか赦しておくれ。この世に遍歴の騎士がかって存在し、今も存在するという、わしのおちいっていた考えにお前をおとしいれ、わしだけでなく、お前にまで狂人と思われるような振舞いをさせて本当にすまなかった。"1615年に発刊された本書は遂に終わりを迎えるメタフィクション文学傑作。

個人的には前篇3冊、そして後篇3冊目と読み続けてきた自称騎士の物語も本書で遂にラストを迎える。という感慨深さを覚えながら手にとりました。

さて、そんな本書は前作の『後篇ニ』で公爵夫妻により(面白半分に)"島の領主"に任命されたサンチョ・パンセの【必然的な短い統治の終わり】から始まり、再び合流、コンビとなったドン・キホーテとサンチョ・パンセと遂にバルセロナにて待望の【本物の冒険】出版当時、実在の英雄的人物のロケ・ギナール率いる盗賊団との出会いや、ガレー船とトルコの海賊との交戦を目撃したことで、意外なまでにドン・キホーテは次第に精彩を失っていき、遂には再び現れた学士サンソン・カラスコこと『銀月の騎士』と再戦、今度は【決定的な敗北を喫してしまう】わけですが。

まず、前篇では全てを妄想【自分のフィクションの力によって】周囲を巻き込みながら立ち寄る旅籠は城、現れた風車は巨人の群れとみなして無邪気に突撃していたドン・キホーテが、後篇になってガラリと変わって、むしろ今度は"前篇の物語を読んだ"【周囲の人たちよって欺かれ】現実との狭間で懐疑的になっていき、遂には現実の前で『虚構の存在』として崩れ去る。【こんな予想外のラストになるとは】というのが驚きでした。そして作者の目的であった【『騎士道物語を打倒』しつつ『騎士道精神』を肯定する】を達成した。シリーズ全体の見事な構成、ラストに感心しました。

また、繰り返しになりますが。『前篇』の存在はもちろん、本書では当時の実在の人物すらリアルタイムに作中に取り込み、さらには他人による『偽作』に登場するドン・アルバロ・タルフェといった人物すら取り込んで最初から最後まで自由自在、メタ的に虚実入り乱れた作品が【400年前に書かれていた】という、その斬新さ、創造力にもあらためて感心しました。翻訳の素晴らしさもあって、シリーズ全てが終始読みやすく。かつ、まったく古臭く感じず本当に楽しめる読後感でした。

読みやすい古典文学傑作を探す誰かへ。ドン・キホーテやサンチョ・パンセのコンビはもちろん、魅力的な人物たちが多数登場し、活躍する物語が好きな人にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?