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ポップ1280

"そこで、おれは考えに考えた。とことん考えた。そして、とうとう結論を出した。おれの結論は、どうしたらいいか皆目見当がつかない、というものだった。"1964年発刊の本書は人口1280人の田舎町の保安官が饒舌に語る社会風刺とブラック・コメディに満ちたノワール小説傑作、『このミステリーがすごい!2001年版』海外編第一位。

個人的には『読書会という幸福』で、本書が課題図書として取り上げられた会の様子が描かれていたのをキッカケに手にとりました。

さて、そんな本書はペイパーバック向けの通俗小説として発刊後に絶版状態になるも80年代のリバイバル・ブームの中で再評価され、スティーヴン・キングも絶賛、評論家ジェフリー・オブライエンに『安物雑貨店のドストエフスキー』とも呼ばれた著者の代表作の一つで、小さな田舎町ポッツヴィルの保安官、ニック・コーリー。臆病で愚か、自分の考えがまったくないような"ふり"をした男が、実に巧みなトリックスター、冷酷ぶりを発揮して【自分の利害のため】だけに殺人や悪行を重ねていくのですが。

まあ、前情報なしで読み進めると、冒頭から売春宿の『ヒモ2人が生意気な口を聞く』ことを別の町の横柄な保安官、ケン・レイシーにアドバイスを求める流れまでは主人公に【愚かさしか感じない】のですが。ポッツヴィルに戻ってからの、まるで北野武監督作を思い出させるかのような【ヒモ2人の瞬発的殺戮】からスイッチが入るかのようにぐいぐいとラストまで引き込まれた。

また、本書の出版自体は今から約60年前、キング牧師による人種差別撤廃運動やケネディ暗殺事件の前後ですが。そこから【あえてさらに半世紀前】1910年代のロシア革命あたりを時代設定にして、崇拝した『ガリヴァー旅行記』のジョナサン・スウィフトの影響よろしく【糞尿趣味や下品な語り】であからさまに黒人差別の実態を『ハックルベリ・フィンの冒険』すらパロディ化して描いている本書。ノワール小説の常として、主人公の設定含め『万人受けはしない』かもしれないが、個人的にはとても良かった。

テンポよいブラックコメディ、社会風刺ミステリー作が好きな方へ。また勧善懲悪的な作品に飽きた方にもオススメ。

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