見出し画像

モナドの領域

"しかしこんな人間みたいな姿かたちをしておる者に向かって『神』とか『神様』とかは呼びかけにくいだろうから『GOD』でいいんじゃないかな。"2015年発刊の本書は著者自ら“わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇"と宣言した、GODが人間界の裁判にかけられる実験小説、著者版の『大審問官』

個人的には長らく著者ファンなのですが。本書に関しては未読だったので手にとりました。

さて、そんな本書は河川敷で片腕、近くの公園では片足が発見されるバラバラ事件の発端と思われる出来事、一方でパン屋のバイトとして見事な片腕や片足の形をしたバゲットを作り失踪した美大生。と如何にもミステリー仕立ての状況から始まるも【物語は一転】『GOD』に憑依され別人の様な『万能存在になった』結野教授が人々の相談にのる中で、彼を教祖として利用しようとする男を"デコピン"で3メートル近く弾いたことから(笑)傷害事件として、裁判に立たされたりTVに生出演し、哲学的な問答を繰り広げる。という『思考・実験小説』になっていくのですが。

まず、著者の神的存在を【神学や哲学の名著を引き合いに出しながら言語化する】という博学さの中に自身の自虐ネタやブラックジョークを散りばめる法廷やTVでのやりとりに、ドストエフスキー、カラマーゾフの兄弟『大審問』をオマージュした楽しさがあって、最高傑作かどうかは別にして【著者自身の実体験も反映された】総決算的な作品。という迫力を感じました。

一方で、美貌の刑事が事件に関わっていく。という冒頭からのミステリー仕立ての流れも、作中内で一応は解説されるも【導入部としては特に必要なかったのでは?】と疑問を覚える部分がありましたが。ファンとしては、80代と高齢になってもメタフィクション・パラフィクション的な『実験小説に挑んでいる姿勢』に感動しかないわけで『それはそれ』といったところでしょうか。

神的存在について。『小説仕立て』での問答を追体験したい神学・哲学ファンに。著者の(おそらくは)最後の長編としてもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?