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夏の終わりと甲子園

二死一塁、三塁。カウントツーボール。得点は3-4。シングルヒットで追いつく正念場。ピッチャーが投げた第三球は真ん中低め、キャッチャーのミットに収まることなく放物線を描いた。逆転の3ランホームラン。

甲子園第一回戦、済美(愛媛)- 東筑(福岡)。職場の休憩室にあるNHK流しっぱなしのテレビで、観客席が湧く様を眺める。5分だけのつもりが、気づけば30分もテレビの前で釘付けになっていた。

夏。野球。甲子園。野球の思い出といえばパワプロとあだち充と片手で収まる程度のプロ野球観戦の自分にとって、甲子園はとても縁遠い存在だ。高校時代、野球部の体育会系のノリをはたから見ていて嫌気がさしていたし、顧問だった先生のことは大嫌いだった。グランドで野球をしたことは一度もない。

それでも、毎夏、甲子園を観ている。強豪校や注目選手が誰なのか分からないまま、とにかく夏の日中はNHKにチャンネルを合わせ、緊張感いっぱいの選手を、張り詰めた甲子園の空気を眺めている。

この季節を楽しみにし始めたのは高校3年の夏から。

高校野球を観たいと思ったことはなかったけど、高校3年間ずっと仲良しだった友人H君が野球部の部長だったこと、引退試合になるかもしれないということで、夏の地区予選三回戦を観に行った。

詳細はあまり覚えていないけど、負けたこと、めったになかないH君を含め野球部のみんなが泣いていたことはハッキリと思い出せる。自分も人並みに部活をやっていたが、自分の引退試合のときは「まあこんなものか」と泣くことなく納得していた。自分は頑張っていなかったから。しかし、なんでこんなに頑張ってきた人たちが、ここで終わってしまうのだろうか。たった一回負けただけじゃないか。本気でそう思えてしまって、やるせなさで胸がいっぱいになって、ボロボロ涙がこぼれてきた。

それ以来、毎夏、甲子園を観ている。

同級生だった彼らのほとんどが、今では野球と無縁の生活を送っている。それでも高校3年の夏、試合の勝敗が決まったあの瞬間の情動は変わらず持ち続けていると思う。少なくとも自分の記憶の中では色褪せず、むしろ甲子園を観るたびにより鮮明になって思い浮かぶ。

甲子園まで勝ち上がってくるほど野球に熱中してきた彼らのほとんどが、まったく違うことをして大学に行って就職して、野球のやの字もないような人生を送るのだろうと試合終了のサイレンが鳴り響くたびに思う。あと数週間で彼らの夏は、野球人生は終わってしまう。

白球を追う姿に感動を覚え、観終わった後には一抹のやるせなさが残る。きっと来年も同じように繰り返すだろうけど、この夏は、白球を追う彼らの姿を目に焼き付けて、しっかり涙を流そう。

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カメラが好きです。漫画はもっと好きです。コーヒーはもっともっと好きです

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