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夢 #掌編小説

頭の中で、落ちていくイメージがふと現れるときがある。

蒼と黒の入り混じる、命の欠片さえ存在しない静かな世界で、私は頭から落ちてゆくのだ。

『不思議の国のアリス』が落ちた穴のように無限の中、行きつくところさえわからず、ただ、落下という現象に身を委ねて落ちていく。

それは、ただ穏やかな時間だ。冷たさはなく、息苦しさもなく、ただ「堕ちていく」ということにこの上ない安心感を覚えている。

そんなイメージを持つようになったのは、あの日からだ。

あの日、夢を見た。

普段のイメージとは逆の、赤がかった黒の中から這い上がっていかなければならない夢だ。
ふわりと浮かび上がることはできず、もがきながらなんとか上を目指していく。
途中で疲れて、這い上がるのを小休憩した時に、【俺】は上を見上げていた。
なんと縛りの多いことだ。と、【俺】はため息をつきながら、それでも上を見上げて再びもがく。
両腕にまとわりつくのは縄か鎖かわからないが、【俺】から決して離れないもの。
これがなければ、いとも簡単に目指す場所へ行けることは重々承知の上だった。

しかし、その縛りをちぎることを【俺】はしなかった。

その縛りは、【俺】にとって大切なものでもあったのだ。
縛りを解かぬまま上に行けるわけはないが、それでもいかねばならぬともがく。

そんな夢を、私は確かに見たのだった。

相反する彼の存在が自分の一部であることを知り、私は先のイメージを脳裏に浮かべることが多くなった。
彼が、もがきながら上を目指すのに反して、私は逆行するように下へと落ちていく。そして、それに安らぎさえ感じている。

【俺】も【私】も、どちらも自分自身なのだろう。

相反するものを持ちながら、私も彼も生きていく。
今日もまた、片方は墜ち、片方は這い上がりながら。

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