那須で 現代アートと建築をめぐる旅。
東京駅から”特急なすの” で約70分。これからの季節は避暑地としても過ごしやすい那須。心地の良い「現代アートと建築」がぎゅっと濃縮された土地でした。
■水庭(アートビオトープ那須) ※2023年11月30日で営業終了となりました※
2018年の初夏に完成した、建築家・石上純也さんによる庭園です。(※2023年11月30日で営業終了となりました※)
アートビオトープ那須は宿泊施設ですが、事前予約制の「ランチ付きツアー」または「お土産付きツアー」で日帰りで見学させていただくこともできます。
(宿泊棟近くには、アトリエ・ワンによる「ホワイト・リムジン・屋台 4号」といった屋台も。)
隣接する敷地の開発の際に伐採される予定だったコナラ、イヌシデ、ブナを中心にヤマザクラ、カエデなどなどの落葉樹318本を移植してつくられたという庭園。落葉樹なので、季節ごとに違った風景が楽しめそうです。
森のような”自然の風景”にも見えますが、それぞれの木が重ならないよう、一本ずつ木を撮影、寸法を計測し、正確な模型をつくった上で緻密につくられた庭なのだそうです。
庭の入り口には”玄関”があり、飛び石の上を進んでいきます。庭の手前は「木の間に池がある」状態から、奥に進むほど「池の間に木がある」ような状態に配置されていたりと、思っていた以上に「建築」的な空間でした。
わたしが行った日は、残念ながら曇り〜小雨だったのですが、池に映り込む樹木の美しさだけでなく、水のゆらぎやカエルの声、青々としていく苔など、静かな空間の中で動きのある風景を楽しむことができ、雨もまた楽しめる場所でした。
■那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA
大正時代から残る3つの蔵を、地元の芦野石を使った建築家・隈研吾さんの建築とあわせた美術館です。蔵と蔵の間に大きな池がありますが、これは、石の”重さ”を水のゆらぎで間引くためなのだそうです。
(池はそのまま室内にも。壁の一部の石も抜いてあり、建物の中と外が緩やかに繋がった空間でした。)
「芦野石」は、那須町芦野地区の国道294号線に沿った約10キロの地域で算出される安山岩で、御影石と大谷石の中間くらいのかたさ。準硬石なので加工しやすく、石塔、墓地外柵、倉庫、石垣、石塀、門柱など、様々な用途に用いられてきたそうです。
この芦野石を”焼く”と、鉄分が酸化して徐々に赤褐色の色味に変化していったり、また、削りや磨きといった加工方法で変化する表情を、茶室をはじめとした建築の随所で見ることができます。
建物のなかでは「「隈研吾と石」KENGO KUMA × STONE」という展覧会も開催されており、隈研吾さんの石をつかった建築の一部を公開する企画展も実施中「LOTUS HOUSE(2005 日本)」や「STONE CARD CASTLE(2007 イタリア)」「LAKE HOUSE(2011 日本)」といった石をつかった6つの建物実作6点の原寸の部分模型と写真、図面を見ることができます。
こちらでもまた雨になってしまいましたが、池だけでなく石の地面全体に写り込んだ建物が美しかったです。
■N's YARD
現代アーティスト・奈良美智さんのアトリエ兼ギャラリーのような場所です。建築は建築家・石田建太朗さん率いるKIASイシダアーキテクツスタジオ。アート、建築、鑑賞のための空間です。
先ほどの、石の美術館 STONE PLAZAでみた「芦野石」が、アプローチから外壁へと続いていきます。また、館内には、敷地で伐採されたヒノキが天井使われていたり、大谷石が床に使われていたりと、芦野石以外にも地元の素材を多く取り入れているそうです。
館内には多数の奈良さんの平面作品のほか、奈良さん所有のコレクションやレコード、それらを取り入れたインスタレーション作品なども並び、奈良さんの世界観全体を体験できるような場所でした。また、展示室ごとに様々なかたちで自然光を取り入れているのも気持ちが良い空間でした。(館内はカフェも含め、撮影NGです。)
建物を囲むような広々とした庭には彫刻作品も置かれ、心地よく歩いて回れます。
なお、道の駅「明治の森・黒磯」に隣接しており、こちらには明治時代に、ドイツ公使や外務大臣等を務めた青木周蔵が那須別邸として建てた旧青木家那須別邸(国重要文化財)などもあります。
わたしが伺った5月初旬は 一面の菜の花畑となっていて、こちらも素敵でした。
■板室温泉 大黒屋(菅 木志雄 倉庫美術館)
室町時代に創業し 460年の歴史があるという旅館ですが、「大黒屋公募展」という独自の現代アートアワードも開催するなど、現代アートに力を入れた旅館です。
特に現代アーティスト・菅木志雄さんの作品の紹介に力を入れていて、庭にも館内にも、菅木志雄さんをはじめとした現代アート作品が多数展示されています。
(館内には若手作家を紹介するギャラリーも。この日は「re:planter 村瀬貴昭展」が開催されていました。)
(旅館の入り口にかかる "のれん" も菅木志雄さんの作品です。)
館内のいたる所で作品を楽しめるだけでなく、旅館自体がとても落ち着いた雰囲気で、朝は庭でお茶を沸かしてくださったり、お部屋に好きなお花を飾らせていただけたり、アート関連書籍の充実した図書室もあったり… そして、もちろんゆったりとした温泉も気持ちよく、旅館としても素敵な場所でした。
菅木志雄さんの作品が200点ほど収蔵されているという「倉庫美術館」は、予約をすれば宿泊者でなくても見学可能。
作品だけではなく、案内してくださる 社長の室井俊二さんのトークも面白かったです。菅木志雄さんの才能に惚れ込んで、12年間に渡って作品を購入し続け、お客さんにわかりやすく伝えることを続けられているのだとか。こんなアーティストの支え方、コレクションの仕方もあるのかと驚かされます。
なお、那須では、黒磯駅周辺から板室温泉までの板室街道沿いを「ART369」として、アートで地域を盛り上げるプロジェクトを開催しており、2019年3月には「アート369フェスティバル」というアートイベントも開催されました。「369」は板室街道が主に県道369号であることに加え、那須塩原市の特産品・ミルク(369)から名付けられたという可愛らしい一面も。
一泊二日で心地の良い空間をゆったりと心地のよい旅を満喫できました。今年の夏休みは、那須で現代アートと建築巡りはいかがでしょうか?
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