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“ものさし”を変えると見えるもの ー縮小/拡大する美術「センス・オブ・スケール展」 @横須賀美術館

 横須賀の観音崎の先に建つ横須賀美術館は、目の前いっぱいに海が広がり、自然のスケールの大きさを感じられる美術館です。

 その横須賀美術館で、今、身近なものの”スケール”をかえることで、日常とは少し違った世界を見せてくれるような展示が開催されています。

縮小/拡大する美術「センス・オブ・スケール展」 @横須賀美術館

■ 顕微鏡スケールから望遠鏡スケールまで。 “スケール”に注目したユニークな展覧会

 まず、会場の入り口には、鈴木康広さん《日本列島のベンチ》《日本列島の方位磁石》。《日本列島のベンチ》がやや丸みを帯びているのは、地球の丸みを再現しているそうです。日本だけでなく、その”続き”が頭のなかで作られていくようです。

《日本列島のベンチ》/ 鈴木康広 (2014)

 一方、《日本列島の方位磁石》は、コップの水に浮かぶ小さな方位磁石。ベンチと比べて非常に小さい作品ですが、針ではなく日本の形そのままが方角を示すことで、自分のまわりの”方角”ではなく、”地球のN/S極”のようなスケールに想いがめぐります。

《日本列島の方位磁石》/ 鈴木康広 (2011)

 続く 第一展示室では、顕微鏡・望遠鏡など、光学的な技術によるスケールの変換に注目した作品が並びます。中谷宇吉郎さんの雪の結晶写真、松江泰治さんの空撮写真、野村仁さんの天体写真と写真作品が続いて、一気にさまざまな《スケール》の意識に引き込まれます。(こちらの展示室は撮影NGです。)

 特に、松江泰治さんの空撮写真のシリーズでは、世界各国の風景を様々な視点(高度)から撮影することで、人のつくった墓・建物・街といったモノのミクロの世界とマクロの世界の類似性が見えてきます。

■ ミニチュアを通じて、自分の”スケール”に気づく

 第二展示室では、ミニチュアなどの立体作品が多くなります。(こちらは撮影も可能でした。)

 田中達也さんの作品は、文房具などの身近な道具とミニチュアの人形を組み合わせたミニチュアの風景です。”ミニチュアの人形”といっても、人形のスケールを変えると 同じ”小物”でも違うモノに見立てられるのが面白いです。

 当たり前のことではあるけれど、人間がつくった《道具》は、平均的な人間の使いやすいサイズ(ヒューマンスケール)を元に作られているということを意識します。

《水泳選手は目も超いい》 / 田中達也 (2018)

《しばらくここで待ってクリップ》 / 田中達也 (2018)

■ 1アーティスト1部屋。 アーティストの世界観を感じられる展覧会

 そして、この展覧会は”スケール”をテーマにした企画展でありながら、まるで個展の集合体のような形式で、ほぼ一人一部屋ずつ、それぞれの作品世界を楽しめる展示になっていました。

 例えば、岩崎貴宏さんの部屋では、美術館のある横須賀と岩崎さんの故郷・広島をテーマにした新作が並びます。まず目に入るのは、1853年に浦賀に来航した黒船が水に反射する様子を木で再現した《リフレクション・モデル(サスケハナ)》。

《リフレクション・モデル(サスケハナ)》 / 岩崎貴宏 (2019)

「私の生まれ育った広島は、リトルボーイという名の小さな新型爆弾によって、大日本帝国の領土拡大に終止符が打たれた場所である。(中略)私自身の寄る辺となるこの国のスケールは、横須賀から始まった列強国より与えられた”ものさし”によって急激に変化した上に成り立っている」(展覧会 図録より)

 単なる”ミニチュアのスケール”とは違った”価値観のものさし”の意味も含んでいることに気づかされます。

 横須賀と広島での広告を切り抜いて作られたミニチュアの都市《フェノタイピック・リモデリング》のシリーズと、それらの企業のロゴを星空のようにあ散りばめた《コンステーション》シリーズでは、ともに横須賀と広島のバージョンが併せて展示されていますが、一見すると どちらがどちらの街か区別がつかないチェーン店ばかりの中に、例えば横須賀であれば、横須賀基地の存在に由来するようなお店がちらりと見えたり。

《フェノタイピック・リモデリング・オン・ザ・フロア(広島)》 / 岩崎貴宏 (2019)

《フェノタイピック・リモデリング・オン・ザ・フレーム(横須賀)》 / 岩崎貴宏 (2019)

 企画展のテーマに寄り添いつつ、1作家の複数の作品に触れ、その思想にも歩み寄っていくことができる、1部屋ずつでも個展として成立するような、良い展示でした。

 展示は、2019年6月23日までです。

(館内から見える海の風景。横須賀美術館は立地や建築も楽しい美術館です。美術館の設計は山本理顕設計工場。館内サインは廣村正彰さん。)


【展示概要】縮小/拡大する美術 センス・オブ・スケール展

会期:2019年4月13日~6月23日
会場:横須賀美術館
時間:10:00~18:00
休館日:5月13日、6月3日
観覧料:一般 900円 / 大学・高校生・65歳以上 700円 / 中学生以下無料

 現代美術を中心に、精密な縮小模型から巨大なオブジェ、広範囲の世界をとらえた写真や絵画、異なる縮尺が存在するインスタレーションなどを紹介する展覧会が開催される。
 出品作家は、岩崎貴宏、国友一貫斎、鈴木康広、高田安規子・政子、高橋勝美、田中達也、中谷宇吉郎、野村仁、平町公、ロバート・フック、松江泰治の11組。

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