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ある女の密かな決めごと

いつの間に、こんなことばかり覚えたのだろう

腕っぷしの強さや肩書を振りかざし
虚勢を張る男たち

女の私はそれを微笑みで受け止め称賛する
たとえ心の中で反吐を吐いていたって
その方が生きやすいから

女であることを利用して何が悪い
滑稽な男を愛して何が悪い

生きていくのに必要なのは
男が愛でる美しさと男を気持ち良くさせる器量
愛され凌駕されたい欲望は身体の中で疼いているし

コートを纏い、ひとり街の石畳を進む
こつりこつりと踵の鳴る音が響く

幼い頃にはこの脚で駆け回っていたというのに
いつの間に、自分で歩くのに使おうとすると
非難されるようになってしまったのだろう

もうこの脚は男に欲望されるためだけのものなのか

いつもの駅で、いつもの電車を待つ
2 駅しか乗らないこの電車は、海の見える街まで続いている
自分さえ、行くと決めればいい

しんと冷えた風が横切っていく
季節がひとつ進んでいる

電車を降りた後、一枚の切符を買って
お守りのようにポケットに忍ばせる

これで、いつでもあの街まで行くことができる

私は明日もきっと、男のもとで今日と同じ微笑みを浮かべる
何も変わらない映像が男の目には映るだろう
でも、私の内側は仄かに在り様をは変えている

自分の身体くらい、自分のもとに取り返すことを
ちいさく、密かに決めたから

***

この記事はもぐら会で出された「文字のデッサン課題」。
写真から得たイメージを元に物語を書きました。

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