墓標──『Re:その果』

 一時期、俳句を作ろうと真剣だった時期があります。もっとわかりやすく言うのであれば、俳句甲子園に関連する、俳句を作る人間という自分の一面を、大事にしていた時期があります。今はそれを大事にしていないとか、真剣じゃないとか、そういうわけではなくて、あの頃より一層自分であろうとしています。あの瞬間は、巧みさを少しばかり求めていたけれど、ちょっとした衒いというか、気の迷いだったな、と思います。ある瞬間まで、その時期のめまいが時折来ては、バランスが取れず、ローディング時間が長くなってしまうことが多々ありました。あの頃を、あるいは、あの頃の風を受けためまいの風景を、別に嫌ってはいないけれど、らしくあろうとして、それを少しでも認めてもらえるなら、嬉しいことです。もう迷わないように。

 あの頃努力した残り火を見つけました。今の僕はこれを、例えば「連作」とは呼ばないだろうな。でも、拙くても、ぐらぐらでも、あたたかな大切さ。手を加えて、墓標としてここに。


Re:その果

 うららかなひかり神社のてのひらは
春ショール天使のように脱がされて
離れ出す蜂 まったくが風の中
桜くぐり抜けばらばらに散る視線
洋燈屋の端から端を濃い暮春
灰皿に伸ばした指が夏を掻く
餌入れの花がら古びゆく五月
夏の湯屋 蝶の遺骸に羽、がざり。
道に焼かれる プールの子まだ遠い 
うそつきの「き」だけ八重歯を夏へさらす
八月の栞やぶれて出る花びら
整列の余白ゆるやか水の秋
ロンドンは加速して月夜のプラットホーム
よく濁る嫌われた日の秋の虹
焼却炉閉めて真っ暗闇に霧
まごまごと焚き火は伸びだして空へ
命令をしてやわらかな冬の舌
ざぶらざぶらと大鯨に深い藍
つららどれも苦しくてその果まで
あとがきに名前の数多春もうすぐ
『Re:その果』©︎Kaname Tamura 2022


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?