♯1.1_番外編_博士の痺れるシーン―― 『ナチュラル・ウーマン』(松浦理英子)のパーフェクトラブ

 前回、松浦理英子氏の小説『ナチュラル・ウーマン』のパーフェクトラブについて、記事(https://note.mu/plcollecters/n/ne95e892d7c58)を投稿しましたが、番外編として、同作品から博士の痺れるシーンを紹介したいと思います。
 その前に改めて、同作品の概要を説明しますと、二人の女子大学生、容子と花世が同人誌漫画のサークルで出会い、強烈に惹かれあい、そしてすれ違い、別れを迎えるお話です。容子は、険しさや不安定さを求める嗜好があり、花世は、そんな容子の望みを受信機のように感じ取って応えます。話の語り部、一人称は容子になります。
 では、博士の痺れるシーンはこちらです。

 花世がヘッドフォンのピン・プラグを私の肛門に差し込んだ。これまでサイン・ペンだとかスプーンだとか物干用ロープだとかいろいろな物を入れられたけれども、ヘッドフォンというのは新手だった。花世はヘッドフォンを耳にかけ静かに座っていた。私は声をかけた。
「何か聞こえる?」
 花世は頬に笑いを浮かべた。
「この人でなしの鬼婆、死んでしまえって言うのが聞こえる。」
「そんなこと、誰も言っていないわよ。」
「接続不良かしら?」
 ピン・プラグが揺すぶられた。私は爪先を縮めた。

 私、肛門にヘッドフォンのピン・プラグを差したくなる気持ち、非常に痛いほど理解できるんです。


 人間は絶対に他の人間と一つにはなれない。どんなに好きな相手と抱き合っても絶対に一つにはなれない。別の人間だから、相手の気持ちを完全に理解することができない。だからこそ、相手がどう思っているのか、どう感じているのか知りたい。理解しようとしたい。
 目の前の相手をよく見て、表情から言葉から何でも掴み取りたい。もしかして、こういうこと考えてるの?こうしたら喜ぶのかな?その想像力は尊い。
 目いっぱい想像力を働かせて、目の前のこの人が喜ぶこと、やってみよう。ねぇ、どう?喜んでくれてる?聞かせてくれたら嬉しいな。あなたの体の中の電気信号、直接聞けたらいいんだけどね。

 このシーンは、こういう気持ちを痛いほど表してくれていると思います。肛門にヘッドフォンのピン・プラグを差したご経験のある方が、どれくらいいるかわかりませんが、この気持ちをわかってくれる方はきっとどこかにいるのではないかなと思っています。

参考文献:『ナチュラル・ウーマン』松浦理恵子著(河出書房)

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