オーボエ

あっ。今ピンクの音がした。
そう彼女は言った。
その言葉に、驚かない者はいなかった。
だって、「音」に色があるなんて思う人間はごくごく少数だから。

けれど、その言葉に興味を持った者がひとり。
それが、ボク。音門文章(おとかどふみあき)

ボクは、仕事柄、人の才能を見つけ、伸ばすのが得意だ。
そんなボクのアンテナに引っかかったのだから、
彼女には才能がある。

少なくとも、「音」に色があると表現するのは、
「普通」(一般的)ではない。

独特な感性、感覚。といえる。
しかし、このままでは埋もれてしまう。
生きにくい人生だったなぁで終わってしまう。

それはなんとももったいない。
そこで、ボクは思い切って彼女に声をかけた。

いきなり、ごめんね。
キミ、いま、ピンクの音がした。って言っていたよね。
あ……。すみません。声、大きかったですか?

いいや。そうじゃない。
その感性を活かして欲しくて声をかけたんだ。
きみ、文章書くのと演奏したり、歌うのどっちが好き?

ええと……。演奏したり歌う方ですかね?
やりたいのは?「文章」ですかね?
評価されてきたのは?演奏したり、歌う方ですかね?

なるほど。じゃぁ。きみさえよければ、
まずは演奏もしくは、歌を見せてくれ。
もちろん両方でもいい。


わかりました。ではいつにしましょう?
そうだな……。

一番美しく見える服を
用意したいとかもあるだろうから、1ヶ月後に、
音門ホールへ来てくれ。

えっ?
あそこって……。
音楽やる人間なら、知らない場所じゃない。

ここで演奏できるようになれば、一人前。
そう認めてもらえる場所だ。

そして、ボクが「音楽の道」に興味を持ち、足を踏み入れる
きっかけになった場所。

そんなある種「神聖」な場所に、このどこか「つかみどころのない」渋くて色気の漂うこの野性味のある男が
私の可能性を探るため、あの「音門ホール」へ来いという。

この時点では、審査されるのが私だけだとは思わず、
これも何かの縁と了承した。

そして、いよいよ当日。
会場につくと、音門さんと、
音門さんより偉いと思われる人、


あと、美的センスのありそうな女性がひとりいた。
この美しく、センスのある方も応募者か、
声をかけられた方かな?と思っていると、

その女性が、私の方に近寄ってきて
たかはしさんよね?私、ヘアメイクの神条っていいます。

お話は、音門から聞いています。
最高に美しくして見せるので、こちらにいらしてください。
という。私は状況が掴めないまま、
神条さんについていき、メイクアップしてもらった。

その姿を鏡で見た時、本当に私?と思うほど美しかった。
すると、神条さんが、わたしに

「あなたは自分の魅力を知らな過ぎる」

せっかくこんなに素敵なのになんでわざわざ魅力を隠すの。
そんなのもったいないわ。と言ってきた。

ねぇ。音門。
あ、ああ……。
だから、声かけたんだよ。

その……。なんだ。み、見た目も案外、悪くないし、
なにより、あの感性に惚れたんだよ。

へー。「案外」ね……。わたしには、音門の好みだなぁ。
(ドストライクな感じだなぁ)と思えたけど?

(音門、真っ赤になりながら)んなことはない。
俺は……。そう。感性に惚れたんだよ。

ふふ。照れちゃって。
まぁ。いいわ。そういうことにしておいてあげる。
ところで、なにを聞かせてくれるの?

・・・・・・。
リクエストがあればなんでもいけますが。

ほんと?じゃぁ。

ピアノとバイオリンと
オーボエとピッコロできるかしら?

はい。

じゃぁ。まずはピアノ。

(演奏する)

評価S(上から3番目の評価)

次、バイオリン。

(演奏する)

評価S(上から3番目の評価)
次、オーボエ。

(演奏する)

評価SSS(最高評価)

ピッコロ

(演奏する)

評価SSS(最高評価)

なるほど……。

これはすごい。悪くて「S」ってのは、何年ぶりだ?
3年ぶりぐらいでしょうか?

だよな……。
これは、困ったなぁ。どの楽器で行く?

そうですね……。
やはり、オーボエかピッコロでしょうか。
もちろん、ピアノもバイオリンも素晴らしかったですが。

だな……。
そうしたら、その二択になるのは決定として
どっちにする?

そうですね……。
どちらも「SSS」なので、本人に選ばせればいいのではないでしょうか?

なるほど。
それじゃぁ。そうしよう。

みんな。お疲れさまです。あとは、音門に任せて帰ること。
これは命令だ。

わかりました。お疲れ様です。
それじゃぁ。音門さんよろしくお願い致します。

ああ。


(音門さん入ってくる)
たかはしくん、お待たせ。

い、いえ。

合格だよ。

ほ、ほんとうですか?

ああ。ただひとつだけ困ったことがあってね。
なんでしょう。

どの楽器も高評価で、何を担当してもらうか
決められなくてね。
とはいっても、ふたつにまでは絞った。

そのふたつとは?
なんだとおもう?


オーボエとピッコロでしょうか?

そう。その通り!!

なんだ。本人もそう思っていたのか。
だったら、話ははやい。

どっちをやりたい?
オーボエです。

そうか。
じゃあ。オーボエにしよう。

明日からこられるか?

は、はい。

よし。決まった。

あ、ありがとうございます。

でも……。

でもなんだ?

コレ、現実ですか?
あとで、ドッキリでしたとか、
嘘でしたとか、高いレッスン料かかるとかいいませんか?

ああ。現実だよ。
そして、そんなこと言わないよ。

まぁ。信じられないのもわからなくないけど。

こうしたら、現実だって思えるかな?
と音門さんが、私の近くに来てハグをしてきた。

えっ?

お、音門さん

や、やめてください…。

あ、ああ。ごめん。

(言葉通り止められ、少しがっかりする)

でもわかったろ?
何がです?

きみが、合格したってこと。

そして…。

そして?

ボクは、君が好きで、
きみも少なからず、ボクに興味があるってこと。

(真っ赤になりながら)
そ、そんなことは…。

ない?

は、はい。

ならなんで拒否らなかったの?

それは…。

と、突然過ぎて…。
どうしていいかわからなかっただけです。

ふーん。

じゃあ。ハグさせて♡と頼んでからしたら、
させてくれるか試してもいい?


い、いやです。
なんで?

だって…。
だって?

こ、こんなところで…。
誰が来るかわからないですし…。


ああ。そうか。
たしかに、見られたくないよなぁ。

それに、ここは「神聖」な場だからな。

じゃあ。誰も来ないところなら
いいんだね?

・・・。

そうか。じゃあ。
「今日は」審査だけにしとこう。


おつかれさまでした。

では、また「個人的に」
連絡するから。

コレ…。

・・・。
わかりました。

そう言って逃げるように、
ホールを出ようとした私の腕を
グッと掴み、少し荒々しく大人でエロいキスをしてきた。

そのキスの味は、煙草の匂いがした。


はじめましてたかはしあやと申します。 記事作成・キャッチコピー・タイトル付けを 生業としておりますが このままだと止めないと いけなくなるかもという位 金銭的に困っていますので、 サポートをしてもらえると 泣いて喜びます。 どうぞよろしくお願い致します。