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アマゾンプライムお薦めビデオ② 89 シティームービーの傑作『台北暮色』

今回お薦めする映画はこちら。
あの『非情城市』のホウ・シャオシエン監督が制作を務め、氏のアシスタントを務めていたホアン・シー監督の記念すべきデビュー作である『台北暮色』です。

ロードムービーというジャンルがあるのであれば、シティームービーというジャンルがあってもいいだろうとかねがね思っていたのですが、これがまさにその作品です。実はこの映画、当初は『ジョニーは行方不明』というタイトルで映画祭で日本公開されたのですが、正式に配給されるにあたり今のタイトルになったそうです。『ジョニーは行方不明』のほうが、原題には近いようですが、映画を観終わった後にはこの『台北暮色』のほうが、確かにしっくりきます。そう、これは台北という都市に暮らす市民の日々の生活とそこにあるほの苦さを描いた映画だからです。

「人は距離が近すぎると衝突する」これは映画に出てくるセリフですが、これがこの映画の表テーマでもあり、裏テーマでもあります。実際、人が衝突する場面はそれほど強くは映像的には描かれませんが、淡々としたまさに「暮色」のなかでそのテーマが次第に浮き上がってくる仕掛けになっています。

しかし、この映画「暮色」という割には、色取り(彩り)は鮮やかです。映画のある意味核となるインコの色合いがまさにそうですが、緑、黄色、オレンジ、赤といった色が、これもまた適切なフィルターを通して色鮮やかに描かれています。そう、今、「フィルター」と言いましたが、実はそれこそが「暮色」なのかもしれません。つまり現実の色ではないということです。フィルターとは文字通りカメラのレンズにかぶせて色を変える装置のことですが(しかし、フィルム撮影ではなくデジタル撮影が中心の今の時代では、後から色を調整しているのかもしれませんが)、人は、意識的にせよ、無意識的にせよ、ある種のフィルターを通して世界を見ています。ある街に、この映画の場合はそれが台北ですが、人は何らかの想いを持ってやって来ますし、何らかの想いを引きづってやってきます。それがその人にとってのその町の色です。そしてそれぞれの人のそれぞれのその町の色が集積した時、それはまさに昼と夜の間の色、即ち「暮色」へと集約されていくでしょう。そう、この映画は、まさにそれぞれの人のそれぞれの想いを「色」で表現した映画なのです。

「人は距離が近すぎると衝突する」、これは言い換えれば、人は決して同じ色で世界を見ることができない、ということです。しかし、距離が近ければ近いほど、人はまた、自分と同じ色でその人が世界を見てくれることを期待してしまうのです。だからこそそこには衝突が生じ、そしてその衝突がまたその人のフィルターに色を重ねていくのです。

その意味では、「暮色」は確かに悲しい色かもしれません。しかし同時にそれはやがて夜が来てもそれはまた明けるという意味で希望の色でもあります。そしてこの映画にはその希望もあります。過去は過去として踏まえた上で、人は明日に向けて新しく生きていくことができるという希望があります。その意味では彩鮮やかなインコはその希望の象徴なのかもしれません。インコが家の中から外へと飛び出していくように、人も明日に向かって飛び出していけるからです。

と、そんなことを考えさせられる映画体験です。
是非、ご覧ください!


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