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SF名作を読もう!(24) SFというよりはミステリー。未来の問題ではなく今この時代の問題を捉えた傑作!安野貴博著『サーキット・スイッチャー』
このマガジンでは基本的にSFの名作を紹介しているのだが、今回紹介する作品はまだその枠には該当しないであろうし、恐らく今後も該当しないであろう。もし、将来的に「名作」と呼ばれるとすればそれは「ミステリー」としての名作の方になるかもしれない。しかし、それでも紹介したいのは、この小説は近未来を描きながら、まさに今この時代の問題・課題を描いているからである。2022年にハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した安野貴博氏の『サーキット・スイッチャー』である。 この安野氏、本業はソフトウ
アマゾンプライムお薦めビデオ③ 141:映画の文法としての「会話の公準」とそこからの逸脱:ベルトリッチ監督の傑作!『暗殺の森』
この映画には無駄がない。すべてのシーン、すべての動きに意味がある、というか人はそれを見て意味を考えざるを得ない。そんな人間が人間であることの特性を最大限に引き出させてくれる作品、それがこのベルナルド・ベルトリッチ監督の『暗殺の森』である。 唐突ではあるが、ここで「会話の公準」(協調の原則)というものを紹介したい。言語学者のポール・グライスが提案したものだが、人は会話をするとき、次の4つのことを前提というか暗黙の了解としているというものである。 ①量の公準:話し手は求められ
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アマゾンプライムお薦めビデオ③ 140:塚本晋也監督作品かと思って観てみたら清水祟監督作品だった。でもそれでも良かった!『稀人(まれびと)』
ビデオ版の『呪怨』『呪怨2』を見た時の衝撃は今でも忘れられない。いわゆる「Jホラー」という言葉が世に出てきた時であったが、「Jホラー」とは一言で言えば、「ショック」ではなく、むしろ「不穏さ」を描くジャンルのホラーである。ある意味では「ショック」のほうが、映像化は簡単である。そうではなく「不穏さ」をいかに映像化するか、それが「Jホラー」と呼ばれた作品群が挑戦したことであった。そしてその第一人者が当時はまだまだ若手の清水祟監督であった。 この作品はその『呪怨』の映画版2作を大成
アマゾンプライムお薦めビデオ③ 139:とにかくぶっ飛んでいる。というかぶっ飛びたかったらこれを観ろ!『ヘルドライバー』
個人的な話になるがここ数日のどの痛みがひどく、しかし検査をしてもコロナでもインフルエンザでもなく、熱もない。ただ、薬を処方してもらったので、それを飲んではボーとしてしまう(薬が強かったからだろう)、という日々が続いていた。ここは一発元気の出るバカ映画(いい意味で!)を!と思い観てみたのが以前から気にはなっていた『ヘルドライバー』であった。そしてそれは正解であった。 まあ、残酷表現はあり、裸もありで、人にはお勧めできないが(といいながらしっかりお薦めしているが)、とにかくこの
62. ジャッキー・マクリーン、この人が参加していれば間違いない!:ソロ名義でのアルバム『Jackie's Bag』(1960)『Demon's Dance』(1970)及び、リー・モーガンの傑作アルバム『Charisma』(1969)
今回は久々に正統派ジャズのアルバムを何枚か紹介したい。「正統派ジャズ」といっても何が「正統派」なのかは人によってそれぞれだが、名サックスプレーヤーであるジャッキー・マクリーンが参加している一連の作品は、そのすべてが私にとっては「正統派ジャズ」である。よく人に「ジャズって難しいんでしょ?」とか「何がお薦めなの?何から聴けばいいの?」と聞かれるが、その度に「演奏メンバーの中にジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)という名前が入っていたら、外れはないよ」と答えることに
SF名作を読もう!(22)「人間とは何か」を考えざるを得ないフィリップ・K・ディックの力作!『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
さて、今回紹介するSF名作はこちら!一応映画『ブレードランナー』の「原作」ということになっている、フィリップ・K・ディックの名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。 「一応「原作」」という言い方をしたのは、映画はあくまでこの小説の設定の一部を借りているだけで、中身は別物だからです。そして映画ももちろんいいですが、こちらの小説もまたいい。ここで述べられているテーマを一言でいうと、「人間とは何か」です(そのテーマ自体は映画も受け継いでいますが)。そしてその答えも一言で言
アマゾンプライムお薦めビデオ③ 138:ある意味日本映画史に残る(というか残すべき)最高傑作なのでは!クラシックにしてモダンにしてポストモダン!『銀座カンカン娘』
個人的には『ちゅらさん』『カーネーション』『あまちゃん』に並ぶNHK朝ドラの傑作であった『ブギウギ』であるが(しかし、全話しっかりと見ていたわけではないので、このドラマについては改めて見直してから書くこととしたい)、その影響もあってのことだろう、笠置シズ子氏が出演している映画『銀座カンカン娘』もアマゾンプライムビデオで公開されている。 映画に音が付いたとき、即ち「トーキー」となったとき、誰もが思い浮かべるのは、音楽、歌との組み合わせだろう。その意味で天才歌手笠置シズ子氏は映