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アマゾンプライムお薦めビデオ③ 106:ロックもいいけどジャズもいい。『ウェイン・ショーター自伝』と言ってもいいドキュメンタリー『ウェイン・ショーター:無重力の世界』

前回はストーンズのライブ映像を紹介したが、今回は、「でもやはり私はジャズ派」、といことで惜しまれつつも今年亡くなられた生きる伝説(と言っても亡くなってしまったが)、ウェイン・ショーターの自伝とも言えるドキュメンタリー『ウェイン・ショーター:無重力の世界』を紹介したい。

『ウェイン・ショーター自伝』という言い方をしたのは、ウェインのある意味親分とも言えるマイルス・デイビスには(のちの述べるようにアート・ブレイキーも親分ではあるが)『マイルス・デイビス自伝』という傑作があるからである。ただ、そちらが本であるのに対して、こちらが映像作品であるのはやはり時代の差だろう。マイルスの本も別にマイルス自身が書いたわけではない。インタビューを受けそれが本になったわけである。そしてこちらも同様である。基本的にウェイン・ショーターはインタビュー=取材の対象である。しかし、だからこそ、本人自身が言葉にしにくいものもそこからは伝わってくる。

ジャズファンにとってはいまさらのことではあるが、アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズ、マイルス・デイビス・クインテッド、ウェザー・リポート、V.S.O.P.クインテット、とそれぞれの時代を彩る名バンドで、リード楽器であるサックスを担当し、また作曲も担当していたのが天才(としか言いようがない)ウェイン・ショーターである。それだけでもすごいことだが、このドキュメンタリーを見ると、他にもジョン・コルトレーン、ホレス・シルヴァー、リー・モーガン、フレディ・ハバード、と言ったレジェンドたちの名前が続々と出てくる。まあ、ある意味狭い世界ではあったのだろう。しかし、それら全員から一目置かれ、また重宝されていた存在は、このウェイン・ショーターと彼の盟友でもあるハービー・ハンコックぐらいであろう。

と、一見華々しいキャリアに彩られた彼の人生ではあるが、しかし、特に私生活においては決して幸せなことばかりではなかった。そのあたりはこのドキュメンタリーを是非見て欲しいが、しかし、彼はそれを音楽で昇華させた。もちろん信仰の力もあったであろう(ハービー同様、熱心な創価学会員でもあった)。しかし彼にとっては音楽こそが宗教的意味を持っていた(あるいは彼にとってはお経を唱えることも音楽活動の一環だった)と思いたい。スピリチャル・ジャズと呼ばれる一連のジャンルがあり、その始祖はある意味ウェインの兄貴分であったジョン・コルトレーンであるが、そもそもサックスという楽器はスピリチャルなものを表現するのに最適な楽器である。言い方を変えれば肉体と精神と結びついた表現が一番しやすい楽器がサックスである。そもそもサックスの音色は命の源である「息」から生まれる。そして息と指使いと口使い(唇使い?舌使い)、そして体全体を使ってとるリズム、といったある意味セクシャルな手段をすべて使ってサックスという楽器は演奏される。一番人間の声と動きに近い楽器と言う言い方もできるだろう。早口でまくし立てることも可能だし、ゆっくりと囁くことも可能である。そしてそのすべてのテクニックを使いこなせるのがウェイン・ショーターその人である。そしてそれは彼が人生のいい面もつらい面も知っているからである。

と、とにかく、このドキュメンタリー、ウェイン・ショーターをよく知っている人もそうでない人も、ジャズ好きの人もそうでない人も、音楽好きの人もそうでない人もすべての人に見て欲しい作品である。なぜならここに描かれているのはまさにウェイン・ショーターという人の人生そのものだからである。かつて吉田拓郎は『今はまだ人生を語らず』というタイトルのアルバムを作った。それはそうであろう、その当時の拓郎はまだ若かったのだから。しかし、ある程度の年になると今度は人は人生を語る必要がある。なぜならそれが後に続く人たちの参考になるし、アドバイスにもなるからである。もちろんそれは決して、「俺と同じ事をしろ」というアドバイスでもないし「俺と同じことはするな(なぜなら失敗するから)」というアドバイスでもない。それは単に「俺を見ろ」というアドバイスで十分なのである。「俺はこれこれのことをしてきた。あとの判断は任せる」それだけで十分なのである。

ということでこのドキュメンタリー(なぜかあのブラット・ピットが製作総指揮となっている。彼もジャズファンなのだろうか?)今は亡き人が残してくれた貴重なドキュメンタリーとして、非常にお薦めである。是非、ご覧ください!



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