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55. やっぱりこの時期のマイルスも最高!『MILES IN TOKYO』

先日、バレンタインデーの日にDommuneを見ていたところ、菊地成孔氏と大谷能生氏の二人がバレンタインデーとブルーノートレコードを無理やり結び付けたいつもながらの軽妙なおしゃべりをされていた。その最後にちょっとだけかかったのが、このマイルスの初来日時のアルバム『マイルス イン トーキョー』からの「マイ・ファニー・バレンタイン」であった。「うーん、さすがのかっこよさ!」と思うと同時に、この音源は持ってなかったなと思い、早速アマゾンで購入した。

1964年の演奏で、私が購入したのは2001年のリマスタリング版のCDである。ライブ盤なので音の良さはそんなに期待していなかったが音もいい!最初からアルバム化するつもりで当時の最高の機材を持ち込んだのだろう。今と違ってお手軽に録音ができない時代だったからこそ、逆にいい音が残っているのかもしれない。

さて、この時期だが、マイルス史的にはいわゆる谷間の時期から再びガツンと出てくるという端境期に当たると言えよう。いわゆるゴールデン・クインテット(マイルスに加え、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、ウェイン・ショーター、という構成)の完成直前で、このアルバムでテナーサックスを担当しているのは、ウェインではなく、後にフリージャズの方向に進むことになるサム・リヴァースである。このアルバムはサム・リヴァースがマイルスバンドに参加している唯一の公式アルバムということで一部好事家からの評価は高いようであるが、確かに彼のソロはちょっと変わっているというか浮いているというかぶっ飛んでいる。恐らくジョン・コルトレーンを意識しているのだろう。マイルスバンドにいたころのコルトレーンはまだおとなしかった。しかしその後の、独立して本領を発揮したコルトレーンが今のマイルスバンドにいたら、こんな感じだったのでは、などと勝手に想像してしまう。後のウェイン・ショーターが天才肌だとすれば、このサム・リヴァースという人は感覚派、感情派、スピリチュアル型なのだろう。しかし、それがむしろここから10年後のエレクトリック&ファンク化するマイルスの音楽の方向性をある意味予告しているとも言える。

しかし、アルバムを作る側もそれ(サム・リヴァースの存在)が気になったのだろうか、そしてもちろんタイトルにマイルスの名前を持ってきているのだから、当然このアルバムに収録されているのはマイルスがメインのものが中心である。68年ごろから体調が悪化していくのだが、まだその前の時期で体調的にも万全だったのだろう。とにかくかっこいいし力がある!1959年発売(当時のことだから、実際日本に入ってきたのはその1年後ぐらいであろう)の『カインド・オブ・ブルー』が当時の日本のマイルスファンのマスト且つベストなアルバムだったはずだから、マイルス=クールというイメージが当時の日本のファンのイメージにはあったはずである。しかし、このコンサートはそのイメージを大きく覆す激しさをもったものであった。しかし、決してビバップ時代の激しさに戻ったわけではない。クールにして激しい、激しいながらクール、その新しい、当時としては最先端で最新鋭のジャズのサウンドというかスタイルがここにはある。しかも演奏している曲はいわゆるスタンダードなジャズナンバーなのである。

唯一残念なのは、ライブアルバムでありながら、そこから曲を切り出す曲単位のアルバムとなっているという点である(当時のライブ盤というものはそういうものだったのだろうが)。コンサート全てを収録したマスターテープはいまもどこか(恐らく日本)のどこかにあるはずだろう。コンサート全体の模様も是非聞きたいものである。

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