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高野洸 "Paradise" の風景

「以前どこかでお会いしましたっけ?」

白々しいナンパみたいな文言だが、わたしが "Paradise" を聴いて最初に抱いた感想がこれだ。


高野洸 8th シングル "ex-Doll" リリースから約一ヶ月が経とうとしている(まだ一ヶ月……?)。

今回は、そのカップリング曲のひとつである "Paradise" についてつらつらと感想を書いていきたい。



高野洸 "Paradise" を聴く


単体で聴く "Paradise"

まず、シンプルに聴き心地の話がしたい。

"Paradise" はとにかくサウンドが心地よくて、意味など深く考えずともただただ好きな曲である。

わたしには明確に、
「この音があったら勝ち確」
というくらい好きな電子音があるのだけれど、この "Paradise" にはそれが入っていて、その音が聴こえてきた瞬間
「はい好きぃぇーーーーーーー」
などと軽率に心をつかまれるなどしていた。
こういうところ、ちょろいんである。

ジャンルでいうと、UK garage とか 2step あたりになりそうなのだけれど、とにかくドロップ(サビ)の入り方が好きでねぇ……。

ドロップ後半からボーカルが入るのも追い風が吹くみたいに盛り上がりに拍車がかかって、もうすこぶる好きなのだ。

そのボーカルも、高いのと低いのと、軽いのと太いのと、余白多めのと密度あるのと……表情がコロコロ変わるのが魅力的だ。

そしてまたこれが、単体で聴くのもよいが、いろんなアーティストの楽曲と一緒にプレイリストに入れて聴いてみると、国内外問わず馴染みがよくてたのしいんである。


"ex-Doll" と並べて聴く "Paradise"

8th シングルは、表題曲の "ex-Doll" の次にこの曲が配置されてるわけだが、"ex-Doll" から続けて聴くのがまた、良い。

低音の効いた生音ベースの "ex-Doll" はリズムも一定で流れるようにしなやかに展開していくわけだが、その点 "Paradise" は軽やかな電子音を主体に、変則的なリズムで跳ねるように多面的に展開していくという、そのコントラストがおもしろい。

"Paradise" が "ex-Doll" のすぐ後に流れてきたときの(そしてその後の 『チクタクタ』 も含めて)その世界観の広がり方は、まさにわたしが高野洸の音楽を好きな理由そのもののような気がした。


さて……(深呼吸)。

わたし的には、ここからが一番書いてみたかったことであり、でも勘違いのオンパレードな気もするから書くのにとても勇気が要る部分だ(深呼吸)。

まあ、書いてみよう、こう感じたのは事実なのだから(深呼吸)。

では、いざ(合掌)。


5年の軌跡をなぞり聴く "Paradise"

結論から書こう。

"Paradise" は続きものなんじゃないかという気がしている。

ものすごく雑に副題をつけるなら、
"AT CITY'24"
というイメージだ。


この記事の冒頭に、
「以前どこかでお会いしましたっけ?」
と書いた。

わたしはこれまで、高野洸の楽曲のさまざまな主人公に出会い、それぞれがそれぞれの物語を生きる独立したものとして眺めてきた。

だがこの "Paradise" の主人公には、もうすでに出会ったことがある気がしてならなかった。

その理由はもっぱら歌詞にある。

ここでは歌詞をねちっこく追ってみたい。ねちっこく(ねちっこく)。


"Paradise" の肝となる歌詞はここだとわたしは思う。

僕らすっかり大人になっちゃって
荷物も重くなるばかりだけど

高野洸 - Paradise

同曲には主人公の他に「キミ」の存在が出てくるわけだが、その「僕ら」の関係にはある程度の付き合いの長さが見てとれる。

すると、相対的に「あの頃」が見えてくるし、いつからかの「地つづき」の物語なのだと位置づけることができる。


さて、この "Paradise" だが、数次元にまたがる描写が印象的だ。

まずは生身の身体性からスタートしていく。

落ち着かなくて 走り出す Body

次に何か乗り物で走る風景へと変わっていく。

So ride on on and on and on

からの

三次元の先へ
ワープする Highway

と続く。

そして「三次元の先」ともなると、もう身体とか乗り物とかではなくて、

宇宙に投げ出されて
泳ぐのも It might be pleasant

宇宙にまで行ってしまう。

いったいどこまでいってしまうのだろうか。


ここでいったん立ち止まってみよう。

次に注目したいのが、

飛び込みさえすれば
一瞬で出逢える

という歌詞だ。

あれ、
この感じ、
どこかで……
あーっ!
"Another Brain" じゃーーーん(迫真)!

ということで、


"Another Brain" と聴く "Paradise"

高野洸の楽曲で「飛び込む」という歌詞といえばこれを思い出す。

飛び込む覚悟は出来てる?
出来てる。

高野洸 - Another Brain


そしてもうひとつ、「泳ぐ」というワードにも注目したい。

宇宙に投げ出されて
泳ぐのも It might be pleasant

高野洸 - Paradise

追われるように 鳴り響く
アラートの海を 泳ぎきれ

高野洸 - Another Brain

"Another Brain" について、avex portalのインタビューで高野洸はこう語っている。

高野 宇宙を感じますよね。実はこの曲のテーマは“スマホ”なんですよ。

【高野洸】楽曲とLIVEの二つを極めて、唯一無二な存在になりたい!

これらの箇所の「宇宙」「飛び込む」「泳ぐ」といった単語に、どうしても "Another Brain" の気配を感じずにいられない。

というのも、「スマホ」を主題にした "Another Brain" が世にでたのは2022年6月。

当時はまだコロナの名残りで、外出・旅行や身体的接触への抵抗が残る時期であった。

そんな時期に世にでた "Another Brain" では、宇宙や別次元はもっぱらデジタル媒体の中にあったし、泳ぐといえばネットサーフィンのイメージであった。

だが、2024年1月に世に出た "Paradise" では同じ単語でも様相が異なる。

ここで「三次元の先へ」と誘われて、「ワープ」して見えてくる風景は、外国の地である。

LA Phuket Doha Bruges
キミとだと All brand new

高野洸 - Paradise

インターネットの奥深くではなく、現実と地つづきのどこか遠くへ連れて誘ってくれる "Paradise" は、"Another Brain" の頃からの時間の経過・状況の変化が感じられて趣がある。


"Another Brain" に関連づけるとするならもうひとつ注目したい歌詞がある。

何もかも新鮮な Day & night
特別なキミと
Secret paradise

高野洸 - Paradise

Day by day
パラレルの向こうで
Night & day
If が通り過ぎてく

高野洸 - Another Brain

この2曲、比べて聴けば聴くほど対照的である(別物なのだからそりゃあそうなのだが)。

"Another Brain" はスマホを主題にしているだけあって「パラレル」や「向こう」や "if" といった単語にあるように、ただよいながらも実体感のなさ、掴みどころのなさ、架空性が強い。

それから、「キミ」との距離の遠さが描かれている。

キミにも会えるかな
見せてよ Another Brain

高野洸 - Another Brain

一方で、「浮遊」を歌う "Paradise" では「この感覚」や「焼き付けて」などと実体感がハッキリしていて、何より「キミ」の存在がすぐそばにある。

You know I'm here with you

高野洸 - Paradise

"Another Brain" で描かれていた世界やキミとの距離・遠さが、"Paradise" ではぐっと近くなっていて、高野洸の「軽やかさ」がアップデートされる感覚がある。

ここまでくるとこじつけになってしまうがそういえば、"Another Brain" のMVに登場した2人の青年は、"Paradise" のボーカルの2種類の歌い分けにも通ずるようにも見えてきやしないだろうか。

そんなふうに感じながら "Another Brain" を今聴き直してみると、「パラレルの向こう」に "Paradise" の風景が見えてくる気さえs……はい、これくらいでいったんやめておこう(深呼吸)。


"tiny lady" と聴く "Paradise"

さて。

"AT CITY" で見た風景のひとつにみんな大好き "tiny lady" がある。

次は、"Paradise" に感じる "tiny lady" の残り香を追ってみたい。

先に、"Paradise" で乗り物のイメージが出てくる旨を書いたが、具体的にどんな乗り物をイメージするだろうか。

わたしは、バイクであった。

"ride on" だし、「風と遊んで」るし。

まあ、何に乗っているかはさておき、さっそく "tiny lady" を想起させる歌詞を見てみよう。

What kind of 景色見たい?
教えて We'll depart

高野洸 - Paradise

最高の景色を今 Looking for
連れてゆく Tiny lady

高野洸 - tiny lady

"tiny lady" とどう地つづきに見えるかというと、"tiny lady" 当時の振り回され気味でじれったかった主人公が、"Paradise" ではリードして手を引いてくれるような成長を見せてくれているじゃないか?!というものである。

先に引用した「景色」という単語の前後のたたずまいに注目してほしい。

"tiny lady" では、独りよがりにどこか焦るように「最高の景色」を探していて、その主語はほとんどとが "I" であった。

遠くへこのまま I"ll take you

高野洸 - tiny lady

だが "Paradise" の歌詞を見てみてほしい。

主語は "We" だし、一人であれやこれやと内省せずに、ちゃんと「キミ」に問いかけて対話している、リードしている、もうオトナの余裕が!ある……!!!!

障壁さえ No prob 僕らなら

高野洸 - Paradise

あのじれったかった青年がこんなに大きくなって……(嗚咽)。

以前、"tiny lady" の感想の記事にこう書いた。

"tiny lady" の中にはたくさんの「願い」が出てくる。

その「願い」は、"tiny lady" の中だけでは叶ったかどうかは定かではなかった。

だが、"Paradise" ではこう歌われる。

今ならどんな願いも Come true

高野洸 - Paradise

なんである。

"tiny lady" で探していた「最高の景色」とは、今なら "Secret paradise" だといえるのではないかという気さえしてくr……はい、これもこのへんでいったんやめておこう(深呼吸)。


"SECRET" と聴く "Paradise"

さてさて、もうここまできたら感じたこと全部書いちゃえ〜っ☆ってことで、次は "SECRET" とのつながりを見てみたい。

"Paradise" の物語では、 "Secret paradise" にたどりつく頃には夜になっているというのが歌詞から読み取れる。

We gonna stay here tonight
In this secret paradise

高野洸 - Paradise

そういえば、"AT CITY" の公演内で、"BAR AT" を出て "AT CITY" へと案内されて最初に歌われたのが、"SECRET" であった。

"Paradise" の夜の景色って、どこか "SECRET" での景色にも似ていると言いたくなってしまうのはこの歌詞のあたりからだ。

Top of secret night
Are you gonna go?
& our secret light
此処が SECRET night

高野洸 - SECRET

そして、その他に "SECRET" に出てくる風景にも注目したい。

  • 僕たちだけの Never Land

  • その場所がワンダーランド

  • Real & Dreaming その狭間

このあたりの幻想的な「どこか」はどれも、今聴くと「楽園」を意味する "paradise" の類義語のような気がしてならないのだ。

"SECRET" について、高野洸はインタビューでこう語っている。

高野 「SECRET」はライブのことを考えて選曲した曲で、テーマは“秘密の時間・空間の共有”。二人だけの空間、誰にも内緒の世界ってドキドキワクワクするじゃないですか。

【高野洸】楽曲とLIVEの二つを極めて、唯一無二な存在になりたい!

「秘密の時間・空間」を歌った "SECRET" を聴いたあとに、"Paradise" を聴くとこの歌詞が一層深みを増す。

Secret paradise

高野洸 - Paradise

とすると、"SECRET" で歌われていた
"誘うよ my world" とは今となれば、"Paradise" の世界なんじゃないかという気さえしてくr……はい、これもそろそろやめておけ(深呼吸)。

"Pull the Trigger" もね、少し気配があるのだけど、もうさすがに割愛しておこう。


"mile" を経て聴く "Paradise"

そんなわけで、5周年の軌跡をなぞって "Paradise" を紐といてみたのだが、高野洸の5周年といって記憶に新しい、先のライブツアー "mile" を忘れてはいけない。

思い出してみてほしい、あのライブ会場を満点の星空のごとく照らしたペンライトのことを。

あのペンライトに描かれていた世界地図は、"Paradise" のこの歌詞へとつながる布石だったのではないかという気がしてこないだろうか。

LA Phuket Doha Bruges
キミとだと All brand new

そして思い出してみてほしい。

"AT CITY" 本編、そして "mile" 追加公演のラストを飾ったあの曲のことを。

"ASAP" だ。


"ASAP" と聴く "Paradise"

"mile" 追加公演のアンコールでファンが熱望した曲 "ASAP" の歌詞にはこうある。

地図に無い世界を探していこう

高野洸 - ASAP

ファンの手に掲げられる世界地図のペンライトが照らし出すのは「地図に無い世界」なのだった(は、ちょっと言いすぎだけれど)。

"ASAP" でくり返し歌われる、

We'll be there ASAP

高野洸 - ASAP

の "there" とは今まさに、"Secret paradise" のことなんじゃないかという気さえしてくr……はいはい、さすがにもうやめておけって(深呼吸)。


"AT CITY'24" として聴く "Paradise"

以前、"AT CITY" の感想の記事にこう書いた。

そしていつか「バーチャルシステム」を介さない「今の」"AT CITY" を覗いてみたいとも思うのだった。

わたしが "Paradise" のことを、
"AT CITY'24"と書いたのは、ここまで書いてきたような他の楽曲の気配を感じながら、もうバーチャルを介さなくても行けるようになったであろう、アップデートされたまさに「今の "AT CITY"」を "Paradise" に見た気がしたからなのだった。

"Paradise" には、新世界に誘われるワクワク感・新鮮味とともに、思い出のアルバムをめくるようななつかしさと、いつかのあの頃との再会があった。


高野洸 CDデビュー5周年を彩る "Paradise"

この記事が誰かに届くことがあるのか分からないけれど、あのー、さすがに謝っておきますね、
過剰な深読みしちゃってすみません。

とにもかくにもだ。

どうしても、"Paradise" は高野洸のソロアーティストとしての5年の軌跡をなぞるような、それでいて、ちゃんと「アップデート」された高野洸の今を見せてくれるような、そんな素晴らしい楽曲なのだと声を大にして言いたい。

何も知らなくてももちろん楽しめるし、深読みしちゃえばもっともっと楽しめちゃうし。

なんて味わい深い曲なのだろう。


改めて "ex-Doll" と聴く "Paradise"

先に、"ex-Doll" と並べて聴く魅力を書いたが、ここで追記しておきたい。

"ex-Doll" は「自分らしく踊る・生きる」という解放・決意表明、いわば未来に向けた曲であった。

そして、わたしはその感想として「切なさ」と共にこう書いた。

直視したくなかったり、納得できなかったりした「あの日の自分」のことも、ちゃんと自分自身なんだって抱きしめられたら、いいのにね……。

こんなの、杞憂であった。

だって "Paradise" でこんなにも愛おしく慈しむようにこれまでの軌跡を巡らせてくれるんだもの(勘違いだとしてもだ)。

高野洸のCDデビュー5周年を飾る8th シングルの、過去をふりきって羽ばたこうとする "ex-Doll" の次に、今までのすべてを抱きしめるような "Paradise" が配置されている……これだけでなんだがおいしいご飯が食べられちゃうじゃないか(?)。

世のトレンドをくんだダンサブルでかっこいい楽曲が、まさかこれほど深読みできちゃう味わい深いものだとは思わなかった。


"Secret paradise" を探して

いや実際は知らないよ?
"Paradise" にここまで書いてきたような深い意味など毛頭なくて、わたしのただの脳内お花畑勘違い解釈だって可能性のほうがダンゼン大きい、というか間違いでしかないとは思うよ?

でもさ、"Paradise" にはそういう風景もあるかもって思うと、夢があるじゃないのさ。

いいじゃないの、少しくらい夢を見たってさ(必死に言い聞かせてるけども)。

ともすれば、ここまであーだこーだと追い求めてきた "Secret paradise" とは、この絶賛勘違い脳内お花畑深読み中の、わたしの心のなかの風景そのものなのかもしれない。

とかいう身勝手な戯言を、どうかご容赦くださいね。
(※ご意見はいつでもコメントへどうぞ)


さいごに

やいやいや。

やっと書けたーーー。

まあシンプルに、あたしゃこの "Paradise" がここまで深読みせずともすこぶる好きだってのは、何回でも書いておきたい。

そしてあえて深読みしてこの記事を書くのは、正直、んめーちゃくちゃ楽しかった。

書きながら、これまでの高野洸の楽曲をあれこれ聴き直したし、"AT CITY" をもう一度さらってみたし、新曲3曲も改めてだ〜いぶ聴いた。

あーかな、こーかな、と考えながら言葉にしていく作業は、秘密基地にこもって友だち(友だちとは)とナイショ話をしてるような、そんなたのしくて贅沢でワクワクする時間だった。
(にしてもたのしみ方が独特なのよ。)

なんかそれで今とんでもない多幸感で満ちている。

ここまで書いて今2月25日の23時前なんだけど、昨晩は満月だったんだよね。

なんか、それに引っ張られるわけじゃないけど、今すごい満ち足りてます。


それにしたって、"Paradise" とはまだまだ出会ったばかり。

耳が追いついてない音、流し聴いてる言葉、気づいていない風景、きっとまだまだあるだろう。

"Paradise" のダンス、どんなだろうな〜。

いつかパフォーマンスを拝見する日がとても、とっても楽しみだ……!


こんな風にして、わたしはこれからも、高野洸の音楽を好きなようにたのしんでいこうと思います。

ねちっこくて独特で、ごめんね。

でもたのしい体験をありがとう高野洸ーッ!

よく食べてよく寝てお元気でしあわせにお過ごしくださいねーッ!

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