兎の聴躍

瘤の有る生物に跨る敦煌の空はカシュガルへ降り立つ古風な仕来りに昇る使い古された月に鮮度を与える魅惑的な道は光を放つ交差点に殺到する足跡に擦れ違う文化は実り多く寛容なオアシスを夢で覆うタリム川の濁りや澄んだ水を押し流す星群を清浄の地の国の山肌へ跳躍する明け方の幻想に銷する肉の希望が言葉遊びに満ち欠ける観念の死に費用を掛けない愛の庭師は魂を先頭にエベレスト山頂を飛翔するアネハヅルの翼に明滅する瑕疵を放棄しながら炎と酸欠と心咎めだけを道連れに硬質な骸の間近に訪れる偉大な子供や遠く離れた老人に生きる理由を尋ねるシャイネスなおっさんのドロドロしたおばはんの時の糸を手繰り凧を浮かべ現実を覆う山脈の麓で瘤の有る生物に跨り天竺より御座ある三蔵法師や玉龍が鳴沙山の砂を踏み鳴らす此処は生首からひょろりとひ弱な足が生えた化け物が呻きながら往来する渋谷のスクランブル交差点のド真ん中に一人立ち止まり指先を空より高く突き上げこの指止まる世界中の孤独をバネに月に向かって杵をぶん投げ46億年分のあいいろはとば(藍色鳩羽)でよいしょー!クラクションが人の間に挟まってぺったーん!信号が青になりました潰れた兎の腸が食み出している。寂れた町の隅っこに吹き溜まる葉や木屑のスラングに無縁仏が風を発す(おこす露骨な色の衣装を纏い逸れ者は子供のまま大人になって腐れ縁を結えたお父様とお母様に離婚を宣告出来る権利を強請る何も決めていない時間が流れていればそれでよい学校で富国強兵や経済成長を学び行進して歩いたり整列したり前に倣え(ならえしたりした指先の爪はよく研いてあるから何時でも後ろから君の背中を串刺しにできる血まみれの二十歳は社会に徴兵されてしまう浅緋(あさあけいろの雑草をまいにち間引いているけど託児所の根っこは全く機能しない子供は大人の先輩なのに兎の腸がはみ出してしまって四方八方に広がる赤い瞳の裡側に散らばった褪せたビルの谷間に食い下ってでっかい太陽の前で小数点がコロコロ零れる曖昧な人生を隔てなく食べて肥大し続ける真心が眩しくて誰も振り返えられない無縁仏の誰かが名前から脱皮する呼んでいる私は事実の集合体ではない。幸福が平和を追い越して月光は鞍に跨って暗雲に燐光を掻き分けて過去は諸手に翼を授け乱反射する星達を散りばめたターフの上で見下ろす街の空に神様の落書きは装うあつあつご飯もゆらゆら揺れる廉直なかつお節も踊りながら水屋に眠る夜に茶碗の夢をみる幸福の為に死ねないけれど幸福だからこそ死ねた御納戸色(おなんどいろに生まれ短冊に育つ言葉を数え切れない今で引き止め詩に綴じ込めた願い溢れる部屋の扉を開け出てゆく大切な思い出の塊が大き過ぎて切れない唯それだけの理由で笹の葉サラサラ今と祈りに挟まって兎の腸がはみ出している明日こそ晴天を探しに一緒に出かけよう。


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