ミュージカル・スパイス〜こそあどの森の物語
「こそあどの森」シリーズは、本編で12巻ある人気の児童文学です。
この森でもなければ、その森でもない、あの森でもなければ、どの森でもない、「こそあどの森」。
愉快で穏やかでやさしい仲間たちが暮らしています。
今回は「ミュージカル・スパイス」(第5巻)よりハイライトをお届けします。
なだらかに続く丘を、郵便配達のドーモさんが、鼻歌を歌いながら歩いていました。こそあどの森へ行くところです。
ドーモさんはふと、丘の上に腰を下ろします。
「こうしてぼくがすわりこんだのをみると、ははあ、遠くの町からやってきて疲れたんだな、と思うでしょ?」
まわりにはだれもいないのに、ドーモさんはそういいました。これはドーモさんの秘密のたのしみです。
のどかなひとり遊びをするドーモさんは、スキッパーに手紙を届けます。スキッパーは頭がつんつんの、ちょっと内気で頭のよい男の子。
スキッパーはバーバさんからの手紙で、おかしなスパイスのことを知りました。それから、森のなかを歩いていると…
「きいてください このひとのことを」
ギーコさんはスミレさんを指さしました。 スミレさんは「なんのこと?」といいました。
「♪このひとときたらほんとにわがまま」
ギーコさんは口数の少ない男の人、スミレさんはいっしょに住んでいます。ふたりとも真面目ですが、なぜか踊りだして歌っています。
そこへ、みずうみに住むふたごが来ました。コーヒーを飲みたいと言います。
「コーヒーがいい。わたしのいまの名前はシュガーだから、さとうをたっぷり」
ふたごはときどき自分たちで、名前をかえるのです。もうひとりもいいました。
「わたしのいまの名前はハニーだから、蜂蜜をたっぷり」
さて、郵便配達のドーモさんもコーヒーを飲むのですが…
ちいさいときから あこがれていた
ぼくは 手紙を 配るひと
ひとつの手紙が ひととひとの 人生をつなぐ
なぜか音楽が流れ出し、ドーモさんは郵便配達の夢を歌っています。
結局、いたずら者のふたごが、コーヒーミルに、ミュージカル・スパイスを仕掛けて、それを飲んだひとが歌い出す、という魔法にかかっていたことがわかりました。
こんな風に、こそあどの森のふしぎな日常は続きます。
『こそあどの森の物語(5)ミュージカル・スパイス』岡田淳、理論社、1999
詩の図書館の運営に当てます。応援いただけると幸いです。すぐれた本、心に届く言葉を探します。