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詩は世界をつなぐ ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~ 第2回

2014年5月、パリ11区のDOWN TOWN CAFÉ(ダウンタウン・カフェ)のポエトリー・オープンマイク。いよいよ自分の名前が呼ばれた、というところからです。

緊張しながらもテーブルの間を抜けて司会者の隣へ。それだけでお客さんから手拍子が起こります。日本から来た珍しい参加者だから、というだけではないでしょう。どの詩人のときも必ず客席が湧いていましたから。とにかくオーディエンスが元気いい。このノリの良さに勇気付けられて「ボンソワール!」すると客席からも”Bonsoir!”と返ってくる。反応いいなあ。まずは一発かましてみましょうか。
 
Je suis venu à Paris pour faire Slam !
スラムをするためにパリに来たぜ!
 
歓声。拍手。おおフランス語が通じた。そしてちゃんと受けた。これに気を良くして、着ていたTシャツを見せながら、
 
C’est le T-shirt de Slam japonaise!
これは日本のポエトリースラムのTシャツだ!
 
と言うと、さらに歓声があがります。私の隣では、モヒカン頭のウッドベーシストが弦をバチバチ鳴らしながら早口で叫ぶ。「うんちゃらかんちゃらスラムオージャポン!アリガト!サヨナラ!」いや、まだ始めてないってば。しかしその意味不明の合いの手のお陰で会場の熱もさらに上がり、すっかりその気になってしまいました。
 
ステージといっても段差があるわけでも照明が当たっているわけでもない、お客さんの前に少しスペース空けてあるだけの場所。マイクもないけど肉声で店の端まで十分届きます。

言葉がほとばしる
この場に立つことは
君の耳に新しいひびき探す旅路
(『バジル』より)

まずは韻を多用した短いリリックを披露。モヒカン頭のジーズが、ベースを弾くタイミングを見計らっています。と思ったら、こちらが息継ぎをしたところで、どぅべべべべと鳴らしてきた。そんならこっちも緩急つけてみますか。音と声のセッション、というかボケとツッコミみたいな感じ。

きこえる 声きこえる 声なき声きこえる
僕の声 街の声 海の声 夜の声
夜を越え 海を越え 街を越え 君のもとへ
届け この声とエコー
(『声』より)

初めてパリで朗読してみて感じたのは、なによりポエトリー・リーディングに対する敷居の低さ。そしてみんなでその場を楽しもうというフレンドリーな空気です。お客さんの半分くらいは出場者だけど、半分くらいは友達の応援、あるいはただ聴くのを楽しみに来ている人たち。私がふだん日本で参加する詩の朗読オープンマイク(オープンステージ)では観客と出演者がほぼイコールということもままあるので、新鮮です。
 
もともとフランスのポエトリースラムは、1990年代からアメリカの影響で広まったようです。アメリカや日本では「Slam」といえば詩の朗読競技会、つまり順位を競い合うスタイルを指すのですが、フランスでは競技会のことも「Slam」、単にポエトリーリーディングのことも「Slam」と言います。
 
2006年にはGrand Corps Malade(グラン・コール・マラード)」がCDデビューして一躍メジャーになりました。低音の渋い声はそれだけで引きこまれるものがあって、今もカリスマ的な人気を集めています。(彼のライブもいずれこのコラムで紹介しますね!)
 
さて、ダウンタウン・カフェのポエトリー・オープンステージは21時半くらいに一旦休憩。みんなそれぞれ感想を言い合ったり、お酒を注文したり。半分くらいのお客さんは帰りますが、読み足りない人は残って第二部に参加します。すべて終わるのは23時過ぎくらい。
 

 
ひとまず自分の出番を終えてホッとひと息、生ビールを飲んでいると、両腕に見事なタトゥーの入った兄ちゃんが人の波をかき分け、声をかけてきました。「オレハ、ニホンニイタコトガアル」聞けば徳島の大学に留学していたらしい。なんだなんだ? さらに片言で言うには、今週末の土曜日にこの近所でSlam(この場合は競技会のこと)があるので、参加してみないか?とのこと。会場はいわゆるスクワット(SQUAT)、つまり人が住んでいない建物でアーティストたちが活動する「不法占拠物件」らしい…。
 
さて面白くなってきました。というところで、またまた続きます!

(村田活彦/駿河台出版社 web surugadai selection より転載)

 

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