見出し画像

伊勢崎賢治への注文

 ロシアが「悪」でウクライナが「善」という単純な2項対立を口にする時には必ずと言っていいほど、「ウクライナへの侵攻を続けるプーチン政権には一理もない」という前置きが必要になってしまったことは、ある意味不健全なのかもしれない。

 無論「ウクライナのネオナチ政権がロシア系住民をジェノサイドをしている」というのは悪い冗談で、ロシアのプロパガンダによる陰謀説だということも分かっているし、シンボルになった「Z(ゼット)」だってハーケンクロイツそのものじゃんと口にしなくても多くの人はそう思っている。その反面ロシア系住民が搾取されていたことも事実だ。現ゼレンスキー政権がロシア語の影響力を排除する狙いでウクライナ語以外で書かれた広告を禁じる法が施行されていたからである(ゼレンスキー自身はロシア語圏で育ったのだが)。だがマリウポリが逆の立場になってしまった今となっては教科書に載っていた『最後の授業』を想起せざるを得ない。もっともいかなる国でも搾取されていない移民などごく僅かだろうから、それを言ってはおしまいなのかもしれないが。それに今後Z表記がなくなって困るのは英語圏だけではないはずだ。そもそもゼレンスキーの表記だってZなのだから。

 それにしても、日本も各国も中東の難民へはあれほどの厳しい対応をしていたにも拘らず、得意の手のひら返しで嬉々として支援するのはどうなのだろうか?アフガニスタン侵攻やイラン侵攻のときとえらい違いだなと思うし、非有色人種は特別なのかとつい疑ってしまう。とはいっても多国からの支援を捻出させることができたのは、やはりゼレンスキーのオンライン形式による国会演説の効果であるし、あの桁外れの発信力は侮れない。とは言え国家元首としては当然なのかもしれないが、ゼレンスキーの18歳から60歳の男性市民に対しての出国禁止はどうしてもひっかかる。その一方、日本での国会演説では軍事支援を要請してこなかったことには正直ホッとした。「ロシアへの経済制裁の継続と人道復興支援よろしくね」の趣旨も演説行脚の内容としては冷静だ。

 そうなるとどうしても伊勢崎賢治が、国民に徹底抗戦を呼びかけるゼレンスキーを言及する内容「『プーチン悪玉論』で済ませていいのか」論に行き当たってしまう。「『反プーチン』に熱狂しているヒマはない」などの趣旨は、普段の論調と全く変わらないので別段驚かないが、逆に驚いたのは、今回伊勢崎と橋下徹が言っていることが似通っていることよりも、ウクライナの徹底抗戦を批判する橋下等の意見をリベラル派が全否定したことである(保守派に裏切り者扱いされるのは折込済みだが)。「それは個別的自衛権だ」と言いたいだろうことは分かる。おそらくリベラル派が危惧しているのは、伊勢崎と橋下の意見が反戦の部分は一致していても、核シェアリングについての意見は真逆であろうから停戦を是としない気持ちも分からなくもないが、だからと言ってウクライナ市民の犠牲を増やしていいものだろうか?他国民に「降伏しろ」という権利もなければ「戦え」という権利もないはずだ。

 伊勢崎曰く「バイデン大統領が一言、『NATOのこれ以上の東方拡大に興味はない』と表明するだけでプーチンを譲歩させる引き金になるはず」だが、この譲歩の結果、ロシアが有利な条件で停戦になってしまうと結果的に核武装要ということになり、せっかくの伊勢崎の停戦の具体策は宙に浮いてしまうのではないか?核シェアリングを否定するつもりであれば、伊勢崎はこの不十分な具体策を補完するべきである。ウクライナがNATOに加盟しなくてもロシアがツケを払わざるを得ない方法を考えてほしい。集団的自衛権の悪用という法の抜け穴をつくプーチンのしたたかさは悔しいがまだ健在だ。ぜひウクライナ侵攻をきっかけに自身の具体策に国際法の見直しも加えて言及してほしい。なんといっても紛争解決のプロなのだから。ただどの常任理事国も、ロシアが行使した拒否権だけは、「それとこれとは別だ」と言って手放さないだろうが。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?