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2年半以内に出してくれてありがとう、でも

 『BLACK LAGOON』13巻を上記と同じタイトルでAmazonにレビューを書きました。以下が本文になります。加筆修正はありません。

 上記のようなタイトルを付けたのは理由がある。実は、12巻へのレビューを書いたときに、「せめて2年半内に13巻を出してもらいたいものだ」と思わず口走ってしまったからだ。実際にその期待に応え本巻は2年4ヶ月で刊行してくれたので、それにつられてタイトルも「2年半内に出してくれてありがとう」にしておいた。出来ればそこで締めたかったのだが、「でも」も付け加えてしまったのは読者からの期待値だ。「ありがとう」までは発売がわかったときに考えたものだが、「でも」は当日に155ページという短さに愕然とし、つい反応してしまったものだ。

 本巻の内容は言うまでもなく「五本指」編の完結だが、不安に思うぐらいサクサクと進みよい収まり方で終了した。あまりにもルマジェールがお互い迷うこともなくロアナプラに馴染んでしまったからだ。生き残るかもしれないと予感があったのは、12巻でのレビューで、「微かな意外性も残している。ルマジュールの特徴として意外にもレヴィとウマが合うからだ。少なくともファビオラよりは呼吸が合うのだろう」と書いていたように、哀しい程相性がいい。袂を分かってしまったファビオラは、レヴィと似たような生い立ちを持っているのに正義やモラルを全面に出すツンデレ感ゼロの「良い子」であり、レヴィはその「良い子」さが鼻に付く。そしてロックが助けられなかった雪緒は、12巻の12巻の「ヘタレの地平線」で、「折り合いをつけられない融通の利かない子」と言われた「優等生」だ。ルマジュールはその2人との対比だ。全てレヴィに気に入られるように描かれている。
 「死んでいい理由にゃならねえよ」と12巻で正面ではなく背中で語るようなところ、手引きをしたことに責任を持つ鉄砲玉に相応しいところ、悪態をつくところやそれなのにすぐ尻尾もふってしまうところ、律儀な割りには折り合いはつけられてしまうところ、自分も所詮同じ鉄砲玉と割り切り、彼女を助ける気満々でも「あいつが殺られちまっても別に懐は痛まねえ」と嘯くレヴィに完璧に呼応している。だから本来は面倒見のいいはずのレヴィがはじめてその世話に成功し、嬉々として生活面をサポートする。パスポート、銃とロアナプラ住民にとっての必需品の入手方法をこれまでは省略されていたが、それを余ったページ数で上手くまわしている。本編は急速に進んでいるが、それでも伏線は残している。
 流れる音楽をヒントにルマジュールの出自を明かしているが、実名が分かるのは彼女の最期のときなのか?あの刺青は弁天小僧菊之助だが、そういえば「五本指」も白波五人と同じ人数である。

 4人組との葛藤もほとんどなく、あってもロリキューレールとの対立くらいで、リーダーのルプスへのルマジュールの迷いもレヴィが打ち消してしまっている。悪く言えば勧善懲悪化していて、その点がちょっと気になってしまう。
「双子」編、「日本」編、「ロベルタ復讐」編のような葛藤は、もうないのだと寂寥感は感じる。「ヘタレの地平線」で「あれだけの別々の価値観を俯瞰で見てドライに描き切る」広江礼威自身が「あそこである意味第1シーズンは終了」と明言した以上その通りなのだろう。「ナチ」編のような、ロックとレヴィの価値観の違いでの激しいぶつかり合いはなりを潜めたが、今は静かにレヴィが「信頼」と「信用」との違いを説くことで、価値観に線を引いているところは変わっていないのだ。

 決まりきったことだが、表紙は張である。本作初の男性キャラクターの表紙になったのは他に表紙に出来る女性キャラクターが残っていないからである。そこで張を表紙にする名目としては、また本編の最後を締めてもらうということしかないのだろう。困ったときの張頼みということか。何しろ見た目でも女性キャラクター以上に派手な張にうってつけだ。
 「南米の果てで茨の荒野に佇んでいる彼氏と彼女に献杯だ」と「ロベルタ復讐」の最後のまとめでロックにダメ押ししたことを思い出すが、今や平家物語の平知盛を気取るぐらいになったロックを見ると、あのときから一体幾年月経ったのかと思い知る。
 最終巻の表紙はロックになるのかもしれないが、張と違って見た目の派手さがないので厳しいかもしれない。

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