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【開催レポ】今を生きることが誰かのためになる

ここ数年、耳にすることの多い「居場所」や「サードプレイス」という言葉。特にコロナ禍以降は、在宅で働く人が増え、「地域の居場所」が注目を集めています。1月にco-ba CHOFUで開催したトークイベント「ランタンナイト」では、今回は調布で場づくりをされているゲストをお招きし、はたらくことや場づくりに対する思いをお伺いしました。今日はその模様をお届けします。

「調布の人の『はたらく』を照らすトークイベント ランタンナイト」
Polarisが運営するコワーキングスペース「co-ba CHOFU」で開催しているトークイベント。ゲストのはたらき方、暮らし方をヒントに、自分にとっての「はたらく」を考え、対話する場です。ゲストは地域に愛着をもって働いている調布在住の方。都心ではなく、暮らしに近い場所だからこそ、リラックスして語り合える場を目指しています。


【ゲスト紹介】安心できる地域の居場所

赤ちゃんが泣いても気兼ねせず、おいしい手料理が食べれる場所の有難さ。子育てを経験した人なら、うんうんとうなずかれるのではないでしょうか。そんな子育てをしている人の心強い味方、子育てカフェaona」を運営しているのがNPO法人ちょうふ子育てネットワーク・ちょこネット。その理事長を務めているのが、今回のゲストの1人目、竹中裕子さんです。

子育てカフェaonaの店内の様子
(aonaのWEBサイトよりお借りしました)

aonaには、27畳の広い畳スペースがあり、赤ちゃんをゴロンと床に寝かせて、ご飯を食べることができます。親子で楽しめるイベントや、産後ケアの講座、子連れで参加できるお話会も頻繁に開催されています。そして、何よりもお母さんたちを安心させてくれるのは、ほどよい距離で温かく見守ってくれるスタッフのみなさん。aonaは安心して親子が過ごせる空間として人気です。

竹中さんが理事長を務めているちょうふ子育てネットワーク・ちょこネットは、人と情報を繋ぎながら子育て支援を行っている団体。子育てカフェだけではなく、「調布子育て応援サイト コサイト」の運営もしています。Polarisで働いているメンバーがコサイトで編集部員をしていたり(Polarisで働いている人は業務委託なので複業が可能)、同じ調布で活動する団体同士、Polarisとも10年以上前から繋がりがあります。2010年頃より子育て支援の活動を開始。2013年にNPO法人となり、2015年にaonaとコサイトをオープンしました。

そして、もう1人のゲストは仙川でコミュニティカフェ「POSTO」を運営している田中東朗(たなかさきろう)さん。なんと、竹中さんの娘さんとは小学校の同級生だったのだとか。

POSTOがオープンしたのは、2021年3月。店内では、高齢者向けのイベントや、子ども向けのクラフトワークショップや演劇教室などが開かれ、多世代の交流の場になっています。Polarisでも一箱本棚を置かせてもらったり、ごはんを食べて語り合う「Inspiring night」のイベントを開かせてもらったことがあります。

「子どものいる暮らしの中ではたらくを考える座談会」をPOSTOで開催したときの様子

お店の定休日である水曜日には、地域の人がポップアップでコーヒーやハンドメイドのお店を開いているそう。ランタンナイトにもコーヒーショップの店主さんが来られ、「自由にやらせてくれるのが嬉しい」と仰っていました。東朗さん自身もカフェの店主であるだけでなく、お店で塾も開かれています。

POSTOを始めるきっかけにもなったのが、2018年から始めた「喫茶室ほんのもり」。入居していた団地の取り壊しに伴い2023年12月に閉店してしまいましたが、こちらも幅広い世代の交流の場所となっていました。ほんのもりもPOSTOも、大学時代からの友人2人と共に3人で運営をされています。

右から竹中裕子さん、田中東朗さん。当日モデレーターを務めたPolarisの山本弥和さん。

自分のための場所が、みんなのための場所に

ーーなぜ場づくりをされようと思ったのでしょうか。活動の始まりについて教えて下さい。

田中さん:自分たちが居られる場所をつくりたかった。所在がなかったんですよ。大学を卒業したら、大学院に行くはずだった。でも院試に向かう電車で何かが違う気がして電車を降りてしまった。それからはバイトをして暮らしていました。仙川に来たのはテニスショップで働いてテニス仲間をつくろうと思ったから。調布育ちだけど、自分とは縁のないエリアだったので仙川に来たのは偶然です。

毎日朝起きて働いて、休みの日には友達と集まって遊んだりするけれど、居所がないというか。楽しいけど、楽しいだけっていうかね。だから自分たちのための場所をつくった。でも自分たちのための場所というのは、自分たちだけがいる場所ではなくて、誰かが来てくれる可能性のある場所だった、ということですね。

一緒に立ち上げた友達、トミーとは大学の頃から真面目な話もたくさんしていて、お互いをわかり合えている感覚がありました。2人で「喫茶ランドリー」をやっているグランドレベル代表の田中元子さんに会いに行ったりしました。他にもいろんな人に会いに行き、お店もたくさん見て、つくりたい場のイメージを共有していたんです。

竹中さん:私はもともと場づくりをしたいと思っていたわけではありませんでした。今のaonaの店長である杉山の「子育て中の人たちが気軽に利用できるカフェをやりたい」という思いがきっかけで始まった事業ですが、私自身は、当初は賛同していませんでした。私自身は子どもたちを通じた保護者の知り合いや、仕事の知り合いが地域にたくさんいたので、居場所やコミュニティの必要性を感じたこともなかったのです。

でもやってみたら、実は自分自身にとってすごく良かった。一番有難さを感じたのは、10年ぐらい前にとても辛い出来事があったとき。深く傷つき、家から出たくもなかったけれど、当時やっていた「ちょこカフェ」(カフェaonaの前に運営していた子育てカフェ)に行かざる得ない用事があって。行ってみると事情を知っているスタッフが、いつもどおり迎えてくれて、何も言わず一杯のお茶を出してくれたんです。そのときに、「私には行く場所があった。場っていいな。」と思ったんですね。そこからですね。場づくりはみんなのためにもいいことかもしれないと思うようになりました。

いつもは蛍光灯の灯るco-baもランタンナイトの日はランタンで。

居場所とは「語り」が生まれる場

ーー最近、地域の居場所の必要性が注目を集めています。東朗さんはPOSTOの事例を話してほしいと言われる機会も多いそうですね。

田中さん:昨年、居場所について卒論を書いているという学生がPOSTOに来たんですね。それが自分たちがやっている場について、深く考えるきっかけになりました。そこで行き着いた言葉が「しせい」。どんな漢字を書くと思いますか?

1つは「詩性」。言葉を紡ぎたくなるということ。何が言葉を語らせるのかと考えた時、刹那的で常に変化するもの、ということが思い浮かんだんですね。もし世界が定常的で何も変わらないとしたら、人は何か語りたくなるのだろうかって思ったんですよ。たぶん何も言いたくならないんじゃないでしょうか。今自分が見てる景色がこの瞬間だけのものだということが、人に何かを語らせるのだと思う。

そして、それは「死」とも密接に結びついている。POSTOはオーナーである僕たちが死んでしまったらなくなってしまう。老いや死と共に終わっていく活動だからこそ、来ている人たちが詩性を感じる場所になる。ちなみに、死はとても私的なものです。誰がやっている場所かということも詩的な場所には大事な要素だと思います。

そう考えると、POSTOに来る人はPOSTOのことをすごく語ってくれるんですね。FacebookにPOSTOのことを書く時、人生を語っていたりする。そうした投稿を見ると、語らせる場の力がついてきたことを実感します。

竹中さん:私たちはPOSTOよりお店の規模が大きいので、そこまで深くお客さまと向き合えているわけではありません。それでも、ふと子育て中の大変さ、愚痴をつぶやいてくださる方がいらっしゃるんですよね。常連さんが「保育園が決まりました!でも第一希望じゃなくて…。どうしましょう…?」って報告のような相談のような、ちょっと不安な気持ちを話してくれたこともあります。私たちは答えは持っていないけれども、話してくれることが嬉しいし、ありがたい。

コサイトもやっていますが、普通WEBサイトというのは読者の生の声はなかなか聞けません。でもaonaがあることで、読者に会うことができます。コサイトは子育てに役立つ情報を届けているのですが、事業の根底にある思いはaonaと同じ。この情報を知ったら、お母さんが少しリラックスできるきっかけになりそうとか、お父さんお母さん助かるよね、とか。

子育て支援の文脈で「子どもを真ん中に」とよく言われる一方、「お母さんはやれて当たり前」という空気がまだ残っていると感じます。育児が母親に偏りがちな社会で、それではお母さんが苦しんでしまう。まずお母さんやお父さんたちが幸せでないと、子どもは幸せを感じられないのではないでしょうか。子どもが幸せを感じるためにも、親を真ん中に考えることを大切に活動しています。

aonaで提供されるのはお父さんお母さんがほっとできるごはん。
ランタンナイトでは、みんなでaonaのお弁当を食べながらお話を伺いました。
(写真はaonaのWEBサイトより)

はたらくとは、自分自身を生きること

ーーお二人にとって、「はたらく」とはどういうことでしょうか。

田中さん:社会では「働く」と「会社に勤める」ことを同義とする見方もあるけれど、自分たちにとってそれはしんどいことだった。自分たちにフィットしてない社会でも生きていかなきゃいけない。生きていく方向に行くためのやり方を考えてやってきた、ということかな。

竹中さん:以前POSTOを取材した時に、東朗さんがPOSTをつくった理由について「生存戦略です」と話していたのが印象に残っています。今とは心境が違うかもしれないけれど、すごく共感したんですね。戦略というと戦っているように聞こえてしまうかもしれないけれど、生きているなかには戦いもあるかもしれない。つまり、「自分が生きるためにやっている」ということ。それは私も同じです。

働くことについてあまり深く考えずに成り行きでここまでやってきました。正直、子どもの学費のためだった、ということもある。でも、仕事って自分のためでもあるけれど、思いがけず人のためになっていることも多い。お金よりも、誰かが助かってくれたら嬉しいなという気持ちは強いかもしれない。地域で働いているから、街を歩いていると「コサイト見てます!」と話しかけられることもある。そんな人に出会うと嬉しくて、心の中で抱きしめていますよ。一生懸命やってきたことが、何かの役に立ってるのかなと思える、報われる瞬間です。

田中さん:そうですね、まさに生きていくためにやっている。朝起きて、あそこに行けば誰か知っている人がいるという日々が楽しくて、根本的な幸せに触れているような感じがする。だからそれをみんなにも分けてあげたい。「いいもんですよ」っていうことを言おうとしているのだと思います。

ゲストトークの後はグループディスカッション。
トークの感想や居場所について思うことについて語り合いました。

子育てカフェaonaがオープンする経緯や思いは、ちょこネットさんのnoteに詳しく書かれています。こちらもぜひ読んでみてくださいね。

(text. 武石ちひろ)



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