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異化効果

K先輩からの指令、神戸でグレゴール・シュナイダーを見よ!

大阪での用事があったので、その日程を延長し、足を延ばして神戸まで。仕事では三宮までは行くけれど、JR神戸駅って、なかなか行かない。

アート・プロジェクトKOBE 2019 : TRANS- は、他の芸術祭と違い、アーティストは二人だけ、グレゴール・シュナイダーとやなぎみわ。後者は、パフォーマンスだけであり、今回の訪問ではグレゴール・シュナイダーの展示のみを見る。

迷いつつも、JR神戸駅前に設置されたアートプロジェクトKOBEの案内所を見つけた。第1留から第12留まで神戸駅と新長田駅の周辺に展示がされている。見て回れる時間は3時間。相談をしつつ、鑑賞のコースを決めた。

第1留は、3Dボディスキャンを行い、デジタルワールドにアバターを作るというもの、残念ながらアバターを確認できるのは1週間後に会場周辺ということで、どんな風に取り込まれたのかはわからない。スタッフと展示などの会話を楽しむ。第2留はパフォーマンスであり、限られた日程のみの実施。どこかの和室が映し出さていた。

第3留は旧兵庫県立健康生活科学研究所《消えた現実》

実際に使われていた防疫のビル、廃ビルとあったから解体などを行うのかも知れない。ちょっと距離があるけど、神戸駅から歩く。当然ながら、普通に生活している人がいる。そうした生活の場に、突然提示された。

地下一階の暗いフロアに入り、そこからエレベーターで上がっていく。

この暗いフロアは、「アートの洗礼なんだ。」と解釈した。

全てが白く塗られたフロア。

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色が無くされている。これって、火災報知器の赤だよね...。

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ここでは、一部だけ、白く塗りつぶされていない場所があった。

この建物で、実際にどんなことが行われていたのかはわからない。防疫ということと、水質検査をしていたことらしいのはなんとなく分かる。一部の検査器具が置き去りにされていたり、何もなかったり。バイオハザードの警告があるかと思えば、放射性物質の警告もある。けれども、その主体というか、実態というか、それは、もう取り除かれている。

一部に残されているもの。それが空っぽの施設が、使われていた頃の記憶を断片的に伝えているような気がする。

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コンクリートむき出しのフロアは、獣臭があった。狂犬病だとか、そうしたものの検査もしていたのだろうか。獣臭だけでなく、消毒の薬品の匂いもかすかに残っている。

エレベーターで1フロア毎に鑑賞していく。

途中で、下に降りることができないことに気がついた。どうやって、このビルから脱出するのだろうか...。

そして、屋上に到達する。風が心地いい。

やはり、動物関連の検査もしていたのだろう。

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焼却炉があった。

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屋上からは、階段を使って降りる。異世界から神戸の町に戻る。確か8階分の階段だった。その一段一段が、不思議な体験を反芻させたり、現実に帰れるという安堵感だったり。

ビルから出ると、神戸の人たちの日常がある。この施設は、そんな日常に隣接していた。日常って、それぞれの個人によって違うのだ。

近所の年季の入った中華屋で、さっと昼食を済ませた。

第4留は、メトロ神戸の広いコンコースに設置されていた。アプリもあるのだけど、場所がわかりづらく、また、迷ってしまった。恐らく意図的なものだと思う。

連続する部屋、それを延々とくぐり抜けていく。全く同じ部屋を10くらいだろうか、そのうち感覚が麻痺してくる。ただ、設置された部屋の外から聞こえてくるゴルフ練習場の球の音、それが現実と接続していることを認識させる。

異界感

地下鉄コンコースに設置されていたので、より日常感を感じる。けれども、神戸に馴染みがあるわけではないので、旅行のような気分。そこに現れる作品。自分が入り込む。その没入感からか、日常に紛れ込んだ気まずさ。なんとも不思議な感覚。

第5留から第7留までは日にち限定の展示。残念ながら諦めるしかない。

新長田駅まで、JRで移動してきた。

そういえば鉄人28号のモニュメントがあったな。震災復興のシンボル。

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新長田では、第10留から鑑賞を開始する。

ここはドッペルゲンガーとして、第2留と接続している。スタート地点のデュオドームの映像が映し出されている。自由に弾いていいピアノが見えるし、「何だろうね?」という声が聞こえてきそうな老夫婦がカメラを覗き込んでいる。

恐らく、僕の映像は向こう側に映し出されているのだろう...。

同じ建物の屋上が、第11留ノアービル(屋上)《空っぽにされた》。

階段で屋上まで上がる。「えっ!?」思わず声が出る。

スタッフは居るものの、何もない。神戸の空があるだけ。屋上の隅から隅まで、何かあるのではないかと目を凝らした。

案内のパンフレットには、説明が何もない。

これがアーティストの企みか。


ビルから出てくると、商店街の復興として企画されたAKB48のフォーチュンクッキーを踊る商店街の人たちのビデオがループしている。その音楽と、この作品との異質感。


次が第12留。

丸五市場を会場とした《死にゆくこと、生きながらえること》

ここでは専用アプリをダウンロードして、そのアプリ経由で市場の通路を見ると第1留でスキャンしたアバターが出現する。ジオフェンスがはられており、この市場の中のみで出現する。どこに出現するかはわからない。

仕組みは、こんな具合なのだけど、僕が入ったのは説明のある場所から一番遠い入り口だったみたい。震災による火事を奇跡的に免れた建物のような市場。シャッター街の様相も見られるが、営業している店もある。

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どこに作品があるのだろうか。少し不安になりつつも、商店街を歩いた。スタッフを見つけた時には安堵感すら感じた。

第9留は地下鉄コンコースの端っこに設置された《白の拷問》

アメリカ軍がキューバに設置したグアンタナモ湾収容キャンプ内の施設を再現したというもの。不条理に対する恐怖の感情を喚起させるとしていた。


見ているもののリアリティ

五感を最大限に開き、活用すること

異界は、日常の脇に存在し、接続している


時間切れ。
第8留見たかった...。
神戸の街との接続、美術館では表現できない作品。すごかった。

帰りの飛行機にギリギリで間に合わないことが分かった、タクシーに飛び乗ったらカードが使えない、領収書には高速道路代が記載できない、それと道はよくわからない。でも、飛行機は間に合った。こうしたことも鑑賞体験だったのではないかと思わせてしまう。


2、3日、夢に出てきた。


いただきましたサポートは美術館訪問や、研究のための書籍購入にあてます。