本部警ら隊の実力

さて、自転車の職質はあまり好きではなかったのですが、ある時から職質がおもしろいと感じるようになりました。

それは１年半ちょっと交番勤務を経験した頃、３当直ほど本部警ら隊の研修に行ったのがきっかけでした。研修といっても自転車の職質しかやったことない自分はほとんどパトカーの後部座席に遠慮して座っているだけでしたけどね。

この本部警ら隊はさすが本職、駐車している車に乗っている人に職質をするんです。それは閉店後のスーパーの駐車場に駐車している車だったり、川沿いの公園の駐車場に駐車されている車だったりです。

今考えれば不審そのものなんですが、自転車しか見てなかった自分には全く新しい世界が広がったような気分でした。

そしてその３当直で警ら隊は、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反１件、軽犯罪法違反１件を職質で検挙したのです。

３当直で２件なんてあり得ません。交番勤務員が１年かけてやっと到達する領域です。

よく考えてみれば、自転車に職質しても自転車そのものでヒットするかしないかです。しかし、車に職質した場合、車に積んであるもの全てが職質の対象になるのだから飛躍的に検挙のチャンスが広がります。

この研修のあと、後輩や先輩を誘って交番の仮眠時間を削っては管内の閉店後のスーパーへ繰り出して駐車している車を探しました。

それまで全く気付かなかったんですが、「いるわ、いるわ、怪しい駐車車両が」。こんなことに気づくこともなくそれまで管内をパトロールしていた自分が情けなくなりましたが、どんどん職質していきます。

車に近づいて運転席の窓をコンコンと鳴らします。「防犯指導です。協力お願いします。」といった感じで始まり、「今、何されていたんですか。」「免許証見せてください。」「何か危ないものとか積んでないですよね？」「ちょっと確認してもいいですか。」と質問を重ねていきます。

免許証で名前と生年月日が分かれば犯歴照会を無線でかけられます。深夜のスーパーで駐車している連中は８割くらいの高確率で犯歴がありました。犯歴１０件以上といった猛者もいましたね。

なぜ深夜のスーパーの駐車場でたむろするのかよくわかりませんが、だいたい管内のスーパーを回ると最低でも１，２台は駐車していました。

もちろん皆がおとなしく職質に応じるわけではありません。運転席の窓をコンコンとやった瞬間、車のエンジンをかけて一瞬で走り去っていくこともありました。

鋭い奴になると、ミニパトが駐車場に入るか入らないかのタイミングで駐車場から出ていくやつもいました。

そういう奴こそ何か持っている可能性が高いのでしょうが、こちらの安全を考慮して無理には追いかけないようにしていました。警ら隊のクラウンならともかく、こっちはミニパトですしね。

この駐車車両に対する職質ですが、結局私は１年で２件検挙することができました。銃刀法違反１件、電波法違反１件です。

銃刀法違反の時は刃渡り２０センチくらいのサバイバルナイフが運転席のポケットに入っているのを見つけたんですが、現行犯逮捕して大きい賞状ももらいましたよ。

その月の時間外手当はおかげで数万円もらいました。恐い地域統括も優しくしてくれました。その月だけですけどね。（笑）

銃刀法の時も電波法のときも自分だけじゃ自信なくてすぐに無線で応援を呼びました。今考えれば警察２年目で、実務知識もないのによくあんな職質やったもんだと思います。勢いだけでしたね。

職質で見つけたくないもの

ところで、この職質、見つけたくないものを見つけてしまうこともあります。

それは署員です。

夜の川沿いの駐車場には毎晩フルスモークのワゴン車が何台も駐車されています。中で何をやっているかというと大体男女の行為をしているわけです。

恰好の職質の相手ですが、ノックをした後の彼らの慌て方が尋常じゃありません。まあ、こちらも慌てる半裸の男女を見たいわけではなく、何か検挙したいだけなので、そういう連中はスルーします。

しかし、相手が署員だった場合はそうはいきません。既婚者の警察官が不倫でそういう行為をしていたら報告せざるを得ないのです。良かれと思ってかばってやるとこっちまで処分が飛んでくる可能性がありますから。

本部警ら隊が私の所属署の署員２名を職質で発見したことがあります。川沿いの公園の駐車場、ワゴン車の中で男女の行為をしていたわけです。一人は５６歳の既婚男性巡査部長、もう一人は２４歳の入って１年目の独身女性巡査でした。

２人はすぐに飛ばされました。別の署へ転勤です。二人とも私がよく知っている人だったので、ショックでしたよ。本当ガッカリしました。特に巡査部長の方は警察組織では珍しく優しい人で、若い巡査に慕われていましたから。

２人には悪いけど、懐かしい思い出です。