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(外国語報道を読む)チェチェン・イチケリア共和国首相ザカエフ「ウクライナはダゲスタンの独立も承認すべき」

QHAの報道によるとウクライナに独立を認められたチェチェン・イチケリア—ロシア連邦を構成しているチェチェン共和国ではなく、ドゥダエフ大統領が独立宣言した国家のチェチェン—のザカエフ首相が、ロシア国内のダゲスタン共和国の独立も承認すべきだと発言したらしい。

チェチェン共和国、その後のチェチェン・イチケリア共和国は、1991年にジョハル・ドゥダエフ大統領の下、建国とソ連からの独立を宣言したが、国際的な承認が得られなかった。ロシア政権は、2000年に同国を武力を用いてロシアに「チェチェン共和国」として「編入」した。

UKRAINFORM 「ウクライナ国会、チェチェン・イチケリア共和国を「ロシア連邦による占領下」と認定

https://www.ukrinform.jp/rubric-polytics/3595670-ukuraina-guo-huichechenichikeria-gong-he-guoworoshia-lian-bangniyoru-zhan-ling-xiato-ren-ding.html

インタビューに答えるドゥダエフ初代チェチェンイチケリア大統領

ザカエフ首相が今回発言した内容の中で興味深いのは、イチケリア共和国がダゲスタンを独立させて、北コーカサス人民連合(Kuzey Kafkasya Halkları Konfederasyonu)を形成しようと考えているということだ。それにより「世論にコーカサスに戦争が全くなくなることを知らしめたい(Kafkasya’da hiçbir savaşın olmayacağını kamuoyuna açıklayacağız)」という目的があるらしい。

カフカス首長国構想の再来か?

しかしながら、イチケリアはロシアに編入されることを望まなかったチェチェン人たちが1991年に独立を宣言してロシアと袂を分かち生まれた未承認国家だ。平和という言葉を使ってはいるものの、ザカエフ首相の北コーカサスを含めた連合構想の話にはどうしてもイチケリア第五の大統領ウマロフが掲げたカフカス首長国というイスラム国家構想がちらつく。この国家の目的はコーカサスをカリフ制によって統治することが目的であったとされる(1)。

そしてダゲスタンである。ダゲスタンはロシアの共和国内でも屈指の多民族・多言語国家だ。そしてロシア国内においてイスラム教徒が多数派の共和国でもある。1999年の第二次チェチェン戦争においてはバサエフのようなチェチェン人らイスラム過激派やワッハーブ派のハッターブらが合流した「イスラム国際戦線(Исламская международная миротворческая бригада)」のダゲスタンへの侵攻がロシアのチェチェンへの苛烈な軍事介入を招く要因の一つとなった。

「イスラム国際戦線」という訳語は邦文ウィキペディアより借りたものだ。だが、ロシア語名の"Исламская международная миротворческая бригада"を直訳していくと「イスラムの国際的な平和を模索する/維持する連隊」となることに注意がいく。というのも、日本語では戦線と訳されるが、ロシア語ではむしろ「平和のため」という言葉が冠されている。なのでネーミングからは武力を匂わせない。ただし、その名に反し、国際戦線がとった行動はロシア側から言えば「テロ攻撃」という矛盾したものだった。

ウクライナはもしかするとコーカサス情勢を不安定にしロシアの軍力をコーカサスに向けさせることにより戦況を有利にしようとしていることが推測できる。だが、ウクライナの思惑がどうであれ、それに乗じて出てきたザカエフの「北コーカサス人民連合」構想はどうしてもイチケリア前大統領のウマロフの構想と似ている。そしてそれは最悪のケース「第三次チェチェン紛争」を招くアイデアだと考える。

チェチェン独立派の思想が再び形を取り始めたような言説が出てくるほうが正直、カルムイクの民族主義者達の独立宣言よりロシア内部の瓦解や内戦を引き起こすリスクが高いと見ているのだが….。そんなおまけをつけるかのようにダゲスタンも承認してよと言われても。

参考:
(1)富樫 耕介「ユーラシアにおけるエスノナショナルなイスラーム 主義運動の凋落 ―「イスラーム国」が揺るがす国 家・領域・民族」 https://researchmap.jp/read0144558/published_papers/17353219/attachment_file.pdf

写真:Photo 221365086 / Chechen © Nikolai Korzhov | Dreamstime.com


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