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わたしを離さないで

知らないまますぎゆくのは夏か

あたしがもう随分と眠ってしまってからどのくらい経つのだろう気づけば冬さむくてさみしくてこころぼそい季節

果敢なく蜃気楼のように消えたきみは夏の中に置いてきたはずなのにどうしてだかなにかを期待したまま気紛れに付き合っている今日日わたしは突然思い立ってきみに会うことにしてしまった

迷子を拾いに僻地へ行くのはやぶさかではない

このまま心中しませんかと云うきみもわたしもあまりにもばかであまりにも唐突で否そもそも心中なんて云うものは計画的におこなうのではなく突発的な感情から生まれる行動なのだろうがしかしそれはいまではないから殺すにも殺されるにもあまりにわたしたちは弱りすぎていてひどく疲弊していた
せめて判断能力のもう少しマシなときにヤるならやりたいしいまするのなら逃避行の方がずっといいだろうと思うままその場をなんとなくやり過ごしてしまったのは全くもってわたしがただただ失うほうがずっと怖かったからだと知っていてよ
心中なんていつでもできるけどきみを失うのはまだはやいんだそれを伝えることがそれしかわたしに残されていないのだから今目の前にいるそのひとの眼がそうすごく曇って濁ってしまった瞬間をすこしの時間を経て少しだけ光を取り戻した一刹那をわたしは忘れたりなどしない

或いは
死にたがりのぼくたちなのに希望ばかり探してしまうね

大切にしたいというそれだけのたったそれだけの気持ちを言葉にした途端に搾取され捻じ曲げられ汚いものに形をかえられていつしか原型すらミリも残らないわたしの亡霊が大切を大切にしようとした途端にぶち壊しにくる誰かに憑依されてインターネットの海に彷徨っていたときにきみが助けてくれたと思ってしまったんだそれと同時にあたしはきみをほんとうの意味で救うことができなかったから何度でも出会い直せる言葉や音がそこにはあるからもう一度出会ってやり直すのではなくいつだって間違ったままでいたい

いつも帰り道を教えてくれるねと言うきみにだって帰れなくなったら困るじゃんと半ば冗談混じりで応えたのにいまの会話は忘れないでくれとそうだねきっときみを迷わないように外れかけた道からそっちじゃないよと引き戻すのはいつだってわたしでいたいよエゴだけどきみが音楽や言葉から離れそうになったり諦めて入水しそうになったときにまだでしょこっちだよってちゃんと手を引いて連れ戻したいよ
玉川上水はきみにとってはまだはるかに遠い場所であることを知っていてほしい
きみの命を削るやり方を絶対に否定したくないしそのためにわたしがすり減ったとしてもこころを使い尽くしてぜんぶあげるから見失わないでくれたらそれでいい

わたしの命はもうとっくになかったはずだったのだから



𝓯𝓾𝓬𝓴 𝓶𝔂 𝓿𝓸𝓲𝓭

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