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激ヤバトタン板工場の現実


1.ツイッターにはびこる”イマジナリー製造業界”

新年度が始まる4月1日。この頃になると毎年ツイッターで盛り上がる話題がある。それが『地方クソデカ工場』である。理系の大学で文系がうぇーいして遊んでいる間も授業に出席し、頑張って勉強してメーカーに就職したが最後、コンビニすらない緑あふれるド田舎の工場に飛ばされてしまう。そしてお前たちはカエルやアブと一緒に暮らす羽目になるんだぞ!と新入社員を脅すツイートが転職アフィリエイトで稼ごうとする情報商材プレイヤーたちによって拡散される。

そんな製造業界に対するヘイト・スピーチに対してブルーカラー労働者の筆者は言いたい。お前たちは本当の製造業界のことを知らなさすぎる。

ツイッターには理系卒のメーカー勤務男子は沢山いるものの、彼らのほとんどがMARCH以上の大学の理系学部を卒業し、そのまま大手メーカーに就職した製造業界の勝ち組たちだ。彼らは口々に工場勤務について発信しているが、彼らの意見は業界の"上澄み"であり、大多数を占める大企業未満の工場の実態とは大きなズレがある。

彼らは僻地(僻地とは言っていない)での勤務を殊更に大変だと嘆くが、逆説的に言えば職場の立地以外には不満がないということでもある。社宅や財形、企業年金、様々な手厚い福利厚生と安定した給与、毎年の安定した昇給、そして自動化され安全第一で運用される製造現場、広い社員食堂と休憩室。加えて、製造業界の現場職や技術職、品質管理や購買などは、ノルマや厳しい締め切りがある仕事ではない。仕事内容からみると大手メーカーはかなり楽な部類に入る。日々アップデートが求められるIT業界や、ノルマの厳しいセールスマンのほうが精神的肉体的な仕事の負担は大きいだろう。

僻地に社員寮を含めた巨大な工場を建設し運用できる企業はほんの一握りであり、多くの工場は地方都市の工業団地に工場を建ててモノ作りに励んでいる。実はほとんどの工場は緑あふれる田舎ではなく、都会から車で30分程度でたどり着ける大都市郊外の地方都市の工業用地に存在しているのだ。そこは緑などほとんどない。

大量生産しそれを売りさばける大企業は、田舎の広大な土地に巨大工場を建設するメリットがあるが、それなりの量しか売っていない中小企業にとってはわざわざド田舎にデカい工場を建てなくても、郊外にある地方都市の工業団地に工場を建てる方がメリットが大きいのである。工業団地は水や電気などのユーティリティが家庭用に比べて安く利用できるし、倉庫や物流会社も周りに多いため配送や在庫管理もスムーズだ。まわりに物件も沢山あるので社宅を準備する必要もない。

工業団地はツイッター民が想像する田んぼと山の田舎とはかけ離れた雑多な街並みをしている。道路沿いにはびっくりドンキーとスシロー、家電量販店やしまむら西松屋などの大型チェーン店舗が並び、主要駅前は微妙に寂れていてタクシーも少ない。白線の消えた道路や錆びついた標識、ボール遊びを物理的に阻止するほど雑草の茂った公園、白い煙を吐き出す錆びたトタン板の工場、そんな工場に隣接して並んだ長屋、細い道をトラックが排気ガスをまき散らしながら疾走する。裏路地に並んだ長屋の軒先を歩く野良猫...…

ツイッターで語られるようなド田舎にある工場の方が圧倒的に少数派であり、製造工場で働く多くの人間はこのような工業団地内の工場に日々通って働いているのである。

2.小規模企業者に潜む激ヤバトタン板工場

工業団地にある工場の多くは、先ほど述べた通り従業員数300人以下の中小企業で構成されている。多くの中小企業工場は大手には及ばないものの、福利厚生や安全対策などに気を配り、健全な企業運営を行っている。少子化人手不足の昨今、ブラック労働や安月給で応募をかけても人材は寄りついてくれない。不人気な製造業界は尚更だ。筆者が若かったころに比べても、中小企業界隈での工場ブルーカラーの給与や福利厚生は改善されているように感じる。ロスジェネの頃は本当に酷かった

従業員数300人未満20人以上が中小企業、20人未満が小規模企業者となる

しかし工業団地には健全な工場ばかりではない。大企業と比較すれば考えられないような劣悪な労働環境、ショボすぎる給与待遇の地獄の工場が存在するのである。そういった色々な意味で危険極まりない工場は"小規模企業者"の中に潜んでいる。小規模企業者とは、中小企業よりもさらに規模が小さい従業員数20人以下の工場だ。

小規模企業者の多くは安価に建設できるトタン板工場が多い。そしてこれから解説する特に危険な工場は工場壁面のトタン板が錆びついている場合が非常に多い。製造業界を志す読者は『トタン板が錆びついている工場は危険』ということだけでも、どうか覚えて帰って欲しい。

筆者は製造業界で働いてきた経験から多くのトタン板錆び錆び激ヤバ工場を目にしたり噂に聞いたりしてきた。その結果、激ヤバ工場のヤバポイントは大きく分けて5つに分類できることがわかった。ここからはそのヤバポイントの詳細と、危険な工場の見抜き方について書いていきたい。

3.激ヤバトタン板工場の5つのヤバポイント

まず初めに、なぜトタン板錆び工場が存在しているのかについて答えよう。それはズバリ"社長が儲けるため"である。

もちろん中には使い物にならない前科者や厄介者を従業員として拾い、社会に叩きこみ更生させるような男気社長が率いる小さなトタン板工場も存在する。しかし筆者が見聞きしてきた肌感覚では、90%のヤバ工場は社長の利益を最大化するために経営されているのが現実だ。株式上場もしていないのでウルサイ株主にやいやい言われることもない。小規模工場は社長を王とする絶対君主制の世界なのだ。ではここからは具体的なヤバポイントについて解説していこう。

まず1つ目のヤバポイントが『親族経営と質の悪い従業員』だ。

もっともよく見かける激ヤバ工場の特徴が"親族経営"である。部長や課長といった役職が全て親族で埋められているのである。従業員は捨て駒であり、いくら頑張って働いたところで昇進することはない。唯一出世できる可能性があるのは社長の愛人兼秘書だけだ。

人件費もできるだけ安く抑えるために、現場は非正規雇用の日本語が曖昧なアジア人や、きちんとした工場を首になるようなヤバ親父とろくな同僚がいない。休憩時間に外国語で盛り上がるアジア人グループと、おもむろに喫煙所でシャドーボクシングを始める激ヤバオヤジ。真面目な奴ほど正気でいることは難しい、まさに世紀末である。タフボーイ以外は生き残ることはできない。

2つ目が『宗教家と詐欺師』だ。

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