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【ショートショート】あわ【ラムネ炭酸寝顔】

   あわ

「眠れないよ」
 彼がそういってぐずるので、私は優しくなだめてやった。無視する手だってある。でもなんだか今日はその気分だったのだ。
「眠れるよ」
「こんなに周りがうるさいのに、眠れるわけないよ」
「大丈夫。上に向かって。そうすれば眠れるわ」
 別の声がする。
「眠りたくないよ」
「どうして?」
「だってつまらないじゃないか――」
 声は遠のいていく。そして、また別の声がする。
「部外者のくせに慰めの言葉を投げるのは楽しいか?」
 私は黙り込んでしまった。そんな辛辣なことを言われたのは初めてだ。思わず声の方を見ると、無数の泡がぷつぷつと登りなから眠りにつこうとしている。
「ラムネの泡でも水でもないくせに、いいご身分だね!」
 彼もそう言って眠りについた。遠くの天井に頭をぶつけて消えていった。可愛らしい寝顔だった。食べちゃいたくなるくらいに。
 次の声がする。
「僕もガラスになりたい」
 私はその声を無視した。
 余計なことはしないのが一番だ。


 毎週ショートショートnote
 お題「ラムネ炭酸寝顔」
 文字数409字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)