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ベトナム人との飲み会で訪れたピンチ

あれほど脳をフル回転させたことは、今までの人生でそうなかった。
(※わりと長いです)

昨年、知人に会いにひとりでベトナム旅行に行ったときのことだ。

いろいろあって、なぜかベトナム人が10人ほど集うホームパーティー(というか宅飲み)に交ぜてもらうことになった。

言っておくと、わたしはベトナム語が全く分からない。

頼みの綱は、日本語とベトナム語が堪能な知人、つまり飲み会の主催者だ。

しかし彼女は家主とあって、途中から奥のキッチンにこもって料理を準備し始めた。

手伝おうとしたら、「まいこはみんなと飲んでてOK!」と気遣われてしまい、席に戻る。

みんな、ワイワイと楽しそうに話している。内容は全く分からない。とりあえず場の空気を崩さないように、ニコニコしておく。

英語で話しかけてくれる優しい人たちもいた。しかしわたしは受験を最後に英語の全てを忘れ去った人間なので、次第にジェスチャーを使った原始的なコミュニケーションになっていく。

ジェスチャーでの交流にも限界がある。すぐに手持ち無沙汰となり、ベトナムビールを飲みまくることでやり過ごすことにした。

周りから「こいつイケる口だな」と思われ、乾杯しまくる。生まれて初めて覚えたベトナム語は、乾杯の合図「モ、ハイ、バー、ヨー!!」です。

ビール好きで良かったと、美しい黄金色の液体に感謝していると、いつの間にかカラオケ大会が始まっていた。

見れば、普通の家にもかかわらず、カラオケに設置されているような本格的なマイクと機械がある。家主がどこからともなくギターを出してきて、音楽に生演奏まで加わった。

わたしも、「君はこれだ!」という感じでタンバリンを渡された。ビールを飲みながら、必死にリズムを取って知らない曲を盛り上げる。

この頃には酔いも回ってきて、「言葉が分からなくても何とかなるな!」とお気楽に感じていたと思う。

だが、ピンチが訪れた。

みんなから「まいこも歌って!」とリクエストされたのだ。

どうしよう。ここは盛り下げないためにも、みんなが分かる曲をチョイスしたい。しかしベトナムの曲どころか英語の曲もいっさい歌えないので、世界的にメジャーな日本語の曲を歌うしかない…。

迷ったのはほんの数分だったと思うが、果てしなく長い時間に感じられた。その間、知恵熱が出るのではないかというくらい、脳をフル回転させた。

そして奇跡的に、ひとつの回答が導き出された。降りてきた、とでも言うべきか、ふと脳内にその曲がひょっこり現れたのだ。ここにいるベトナム人が恐らく知っていて、わたしが歌える曲。

「ドナドナ」である。

ドナドナ。ここまで読んでくださった物好きなアナタも、きっと知っているだろう。1938年に誕生し(今調べました)、長い歴史の中で、世界中のさまざまな歌手からカバーされてきた超有名曲。

市場に売られる子牛を題材にしており、非常に哀愁漂う歌詞とメロディーが特徴である。

この曲ならば、いけるはず。わたしは勇気を振り絞って曲を入れ、歌い始めた。

あ〜る〜晴れた〜ひ〜る〜さがり〜
い〜ち〜ば〜へ続〜く道〜

するとどうだろう。皆さん、大盛り上がりの大喝采。

サビまで来るともう、全員声をそろえて「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜」の大合唱である。

いまだかつて、これほどまでに盛り上がったドナドナがあっただろうか。世界ドナドナ盛り上がりランキングがあれば、かなり上位に食い込めるのではないかと自負する。

知らないベトナム人に囲まれ、哀愁漂うはずのドナドナをノリノリで熱唱するわたし。歌い終えた後はみんなが「よくやった!」とでも言うように次々とハイタッチしてくれて、すがすがしい爽快感で満たされた。

ドナドナを歌えて良かった。記憶が曖昧だが、恐らく小学校の音楽の教科書に出てきたのだと思う。加えて大好きな『スラムダンク』の1巻にも出てくる曲なので(花道がフラれたあたり)、印象に残っていたのだ。

ありがとう、音楽の先生。ありがとう、ドナドナを教科書に載せた文部科学省。ありがとう、スラムダンクを描いた井上雄彦先生(←これは常日頃から思っている)。

皆さんもぜひ、知らない外国人に囲まれてカラオケで歌うよう促されたら、ドナドナを歌ってみてください。いつ使えるかは分かりませんが、ライフハックとしてここに記しておきます。

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