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「Trompe l’oeil」企画書

キャッチコピー

「あなたは突然殺人者の子供だと聞かされたら、今日をどう過ごしますか?」


あらすじ

時は2053年、氏名や住所、生年月日だけでなく、出生届・免許証・大学の学籍番号、銀行口座、血液型や持病、飲んでいる薬、もしものときの遺言書にいたるまでIDチップに集約される時代だ。
IDチップを埋め込んでいない人間は、もはや存在していないのと同じなのだ。

己はどんな人間なのか?人間の価値は全てIDで判断できる。
小学校から大学までの学力成績や、絵のコンクールの受賞履歴に至るまで、
IDに埋め込まれた情報は目に見える人の記憶の全てであり、IDの乗っ取りは他人の人生を奪うということ。
20年前、親の事情で皐月と楓は生まれた病院でIDを入れ違いで埋め込まれてしまう。
そのIDには期限が伴うものとも知らずに…。


第1話ストーリー


サイドA:皐月

「ジリジリジリー♪」
騒騒しいアラーム音とともに、皐月の朝は始まった…。いつもの風景だ。朝が苦手な彼女は、昔ながらのベル音を5分おきに設定している。一度で起きられたのは調子が良い証拠だ。

いつものように冷蔵庫を開けてコップ一杯の水を飲み干し、鏡の前に立つ。
すると昨晩からの睡眠時間と睡眠の質のデータが表示され、今日摂取すべき栄養素を含んだ食事のお勧めなどが表示される…はずだった。

「あれっ?またアプデされていないや。最近WIFIの調子が悪いからバグってんのかな?まあいいかっ。」

部屋の中の電子機器は全てインターネットへ接続され、データとして日々IDチップに上書きされていく、そのシステムが不具合を起こしたようだった。しかしそれだけではない。

部屋を出るときにIDチップが埋め込まれた手を翳しても鍵の施錠が出来ない。
「おっかしいなー。もう〜急いでんのにー!」

無防備な状態の部屋を置き去りに車に飛び乗るも、そこでも悲劇が襲うのだ。

「待って〜、車も動かないとか何事よー。」


サイドB:楓

「もうお昼になるけど起きないの?」

そう耳元で囁かれて、眠たい目を擦り始めた。あぁ、またやってしまった…。この子誰だっけ?昨晩の記憶を掘り返そうとしたが、どうでもよくなって止めた。

楓の朝は大抵こうだ。前日にフラフラと出掛けては酒場へと繰り出し、その日限りとなる相手と一夜を過ごす。別に今日死んだって構わない。誰かに何かを期待したりも幻滅したりもしない…そんな日々を過ごしていた。

「朝は食べる?何か作る?」
「いい!もう帰って?」
「あ、そういう感じ?ねえ、君友達とかいないでしょ。じゃあね…」
「…。」
何も言い返せずにいる間に、ドアの音だけが響いた。

冷蔵庫から水を取り出しながら、むしゃくしゃしてくる自分を抑えたくてクラウド音声機器に話しかける。

「ジェームズ!気が晴れる曲かけて!うっさいやつ。」
「プレイリストが見当たりません。」
「は?何言ってんの?壊れた?」

全ての家電にアクセスし、IDデータにも連携されているAIロボットは楓にとって勇逸の友達のようなものだ。それが言うことを聞かなくなったもんだから、さらに怒りがヒートアップしてくる。

「もういい!君には頼みません。」

「あれ?なんで?」

楓のPCはIDチップと連携して起動するシステムが搭載されているが、これが全く動じない。

そうこの日から何かがおかしくなったのだ。


第2話以降のストーリー(あらすじ)


サイドA:皐月

皐月は何とかして大学へと急ぐ。午後は会社で重要なミーティングをする予定だ。そう皐月は現役大学生でありながら会社も経営しているのだ。

大学に着いた時、想定外の出来事が襲う。
この日は大事な試験があり、そのためだけに通学したのだが、校内全てのシステムにIDチップがアクセスできないのだ。優秀な成績を納めている皐月は教授の計らいで別日に試験を受けることでその場を免除される。そして午後の予定を白紙にし、区役所へと急ぐ。ID連携対策課には既にデジタル予約券の発行済みの列がすでに溢れており、長いこと待たされる。
職員に今日起こった全てのことを説明したところ、IDシステムの大規模アップデートが必要なのに5ヶ月放置したことで、全てダウンしたと聞かされる。5月に、何かお知らせのようなものが来ていた気がしたが思い出せない。

サイドB:楓

楓は、何度やってみてもPCにアクセスできないことに腹を立てて電気屋へと急ぐ。電気屋の店員はPCのトラブルではなく、IDチップ側の問題ではないかと示唆する。ため息をつきながら皐月も役所のID連携対策課に赴くことになる。皐月はフリーライターで生計を立てているため、明日締切の記事のためになんとか今日中に解決させたくて自然と威圧的になる。
担当職員は楓の態度に腹をたて、ろくな説明もなしにIDシステムを勝手にアップデートすることになる。

サイドC:20年前 皐月の両親

皐月の両親はゆっくりと自身のIDチップを傾け、重要書類に判を押した。

父親は2年前に会社の運転資金が底をつき衝動で横領に手を染めてしまい、その証拠を握る人物に罪を強請られ、人を殺めてしまったのだ。全ての罪を完全に隠蔽し過ごしていた頃に子供ができる。それは再び罪の意識にさいなまれるトリガーになる。
一生罪を隠して我が子に誇りを持って接することができない人生。はたまた出頭して我が子に罪人の子供というレッテルを着せる人生。

どちらかを選ばなければいけない時が来たのだ。

そんな状況下で禁断の策に乗ってしまう。それはある組織が秘密裏に行なっている実験で、次元付きのIDチップを埋め込めるかという話だ。20年間別の人間の情報で生活をし、20年後のアップデートで情報が入れ替わる。罪人の子供として生きて欲しくなかった両親は、この実験に乗ることで出頭を決意する。そして愛しい我が子を別の家族の元へ手放すことになる。皐月はこの瞬間から楓として生きることになったのだ。


サイドD:20年前 楓の両親

楓の両親は涙に震えながらID印を重要書類に傾けた。

楓の両親は日々の生活に困窮していた。働いても働いても生活が楽になることはなく、第三次産業はAI産業と化しており、倉庫業しか経験のない二人の働き口は少なかった。明日も見えない生活をしながら子供を孕んでしまい、生まれても生活していける自信がなかった。

父親は闇金を回りながら金策に歩き、次元付きIDチップ実験の話を持ちかけられる。20年間、子供をすり替え別の子を育てることで、7000万円を用意するという話だ。20年後にデータを返却されるまで、自分の子供は別人として生活することになり、我が子に会うこともできないし、一切情報は明かされない。それは20年間、自分の子供を忘れて生きていかなければいけないというものだ。それでも生活に困窮していた彼らは、生活苦で心中する人生よりも幸せになって欲しくて我が子の20年間を売ってしまうのだ。契約後両親は、我が子を”楓”と名づけ送り出した。5月に生まれ、新緑から秋に色づく木の葉のように自分の人生を色鮮やかにして欲しいと願い…。


サイドE:皐月と楓

ID連携対策課でシステムをアップデートした皐月と楓は、データーが復旧しIDチップが動作するようになる。しかし、個人データーが全て書きかわってしまったのだ。楓は皐月と呼ばれ、皐月は楓と認識される。職員に自身のデータではない旨を伝えるも証明できるものがない。なぜならばスマートフォンに入っている運転免許証も、個人カードも全て顔写真のみがそのままで、それ以外のデータが書き換えられてしまっているからだ。
職員からは、前代未聞の出来事に皐月は記憶欠如を疑われ、楓はデータ不備を言い訳に職員が勝手にIDを書き換えることはできないだと説明される。


そうして彼女たちは途方に暮れる。

兄弟もなく、罪人の子供として親戚をたらい回しにされて育った楓には連絡できる家族がいなかったのだ。そう文字通り孤独に世間の冷たい視線と戦いながらひっそりと生きてきたのだから。高校に入るまでいた施設がすでに取り壊されたと知ったのは最近のことだ。

一方、皐月も3年前に事故で両親を失ってからは一人で必死に生きてきたのだ。皐月の両親は自分の子供ではない事を引け目に感じ、いつも余所余所しく彼女に接していた。そのせいで彼女は両親の愛情を受け取った覚えがない。
親の保険金を元手に作った会社は、”社員全て見た目で仕事を判断しない!”をモットーにフェイストゥーフェイスで接する機会は少ないのだ。ほとんどがアバターを使いネット上で会話をしながらビジネスを回していた。会社の中に彼女の素性を知る人間は一人もいない。

そんな彼女達に自分自身を証明できる人は存在しない。
そう…お互いを除いては。

楓も皐月もお互いを探し合うことになる。
20年殺人者の娘として虐げらてきた者と、突然殺人者の子供になってしまった者。本当に本来の自分に戻るべきなのか?

葛藤を抱えながら20年前同じ日に生まれた2人は出会い、自分達で自分達を証明しようとする。

彼女たちは”真実”にたどり着けるのか?
そして、彼女たちは今どう生きるべきなのか?

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